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2.病気という「謎」(ミステール)

人類史の薄明から、人は幾たびとなく病に苦しめられてきました。得体のしれない力がどこからともなく肉体を支配し、私たちの体を蝕むのです。膿(うみ)爛(ただ)れた大きなできもの、激しい疼痛(とうつう)、高熱などをもたらすこともあります。どんなに屈強な人でも、天然痘、ペスト、マラリア、エボラ熱などのような強力な病に冒されれば、命を落とすこともあります。それゆえに、長い歳月にわたって、病気とは人間にとって解くことのできない大きな謎であったのです。人はなぜ病気にかかるのか。病や死をもたらす「謎の力」とは、いったい何なのか、と。

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たかだか数百年前という近世、ようやく医療をめぐるテクノロジーが進化をはじめたころ、顕微鏡が発明されました。それは、人類にとって未知の扉を開く鍵となりました。1674年、のちに著名な科学者となるオランダ人織物商、アンソニー・ファン・レーウェンフックが顕微鏡を開発します。普段、顕微鏡は購入した織物の品質検査のために用いられていました。ところがある日、なにげなく池の水を顕微鏡でのぞいた途端、レーウェンフックは魂消(たまげ)ました。水滴の中には裸眼ではとても見ることのできない無数の微生物がうごめいていたのです。一滴の水は、命の拍動・生の祝祭に満ちあふれていました。このような、通常目にすることのできない微生物の世界が存在することは、それまで誰ひとり知ることのない新事実だったのです。


2.1 病気と小さな生物の関係

たとえば、この本を手にするあなたの掌(てのひら)にも無数の微生物が存在し、命がけの争闘が繰り広げられています。しかし、フランスの生物学者ルイ・パスツールが微生物の一種である桿状(かんじょう)菌と、牛や羊が罹(かか)る病気との間に相関関係があることを発見したのは、顕微鏡の発明からはだいぶ遅れて1877年のことでした。この炭疽(たんそ)病(脾脱疽(ひだっそ))のために、これまでも数知れぬ家畜が犠牲になってきました。
パスツールは、桿状菌が牛の体内に侵入することで炭疽(たんそ)病が発症する機序(きじょ)(メカニズム:仕組み)を突き止めたのです。この関係に気づいたことこそ、多くの病気の「原因」や「予防法」を解明する足がかりともなる偉大な発見だったのです。

のちにパスツールは、多くの微生物は熱を加えることで殺滅することができることを発見しました。これにより、牛乳を長く新鮮に保存する方法(低温殺菌)に道を拓(ひら)きました。同じ時期、ドイツではロベルト・コッホ医学博士がコレラの原因となる微生物を発見し、その蔓延(まんえん)を食い止める予防法を提案しています。

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およそこの世で生あるものはすべて、「有機体」と呼ばれます。さらに、裸眼では見ることのできない微小な生物・有機体は「微生物」と名づけられました。これまでに、それぞれ特定の微生物が結核、コレラ、破傷風、天然痘、マラリアその他の伝染病の原因であることが解明されてきました。幾世紀かを経て、これらの病気は、いずれもそれぞれ異なる微生物が惹き起こす、という理解が深まったのです。

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ヒトと他の生物の関係、またその生物が病気をもたらす機序(仕組み)は、信じがたいほどに複雑なプロセスをはらんでいます。そのプロセスの全体像は、いまだ完全には解明されていません。エボラ熱や、爆発的な蔓延(まんえん)をもたらす死の病エイズなどはその一例です。加えて興味深いことには、病気の原因となる微生物が発見される一方で、多くの微生物はまったく無害であるばかりか、その大部分は生命にとって必要不可欠な存在であることが実証されるようになりました(詳しくは 4章 を参照)。

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メモ

微生物以外にも、以下のように他の理由で罹(かか)る病気もあります。

怪我の影響による病気

• 両親から子供へと遺伝する病気:先天性の病気など

栄養失調による病気

• 人体に不可欠な、ある種の物質(ビタミン・ミネラルなど)の不足による病気:夜盲症はビタミンAの不足により起きます

人体部位(内臓など)の機能不全による病気:糖尿病は膵臓(すいぞう)の機能不全により惹き起こされます

精神的ストレスによる病気(バーンアウト:燃え尽き症候群など)

• 職場での悪習慣・勤務態度による病気:反復運動損傷など

生活習慣による病気


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出典:医療現場の洗浄と滅菌

内容に関するお問い合わせは、株式会社名優まで。

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