【エッセイ】おせっかいごめん
これは僕が大学受験の真っ只中に起こった出来事だ。
その日はA大学での受験があり、朝から電車に揺られ、僕は何千人もの受験生と熾烈な争いを繰り広げた。
全ての教科の受験が終わり、疲労感と解放感に包まれた僕は、満員電車に揺られていた。僕が立っている前には、少し前の駅から乗ってきたと思われる、小学生の男の子6,7人が並んでいた。彼らはその服装から、私立の小学校の児童と思われ、お互いにちょっかいをかけながら、放課後の自由な時間を楽しんでいるようであった。
僕はつり革に体重をかけながら、微笑ましく思っていたが、彼らの会話の中にある異変を感じた。
端に座っていた男の子だけが仲間外れにされているようであった。いや、仲間外れというよりはいじめられているといった方がいいのかもしれない。
よくよく会話を聞いてみると、その男の子が”鼻くそ”をほじったことを周りの子ども達がバカにしてるようであった。
そして、その会話を聞いている最中に、僕はリーダー的存在の男の子と目が合った。その男の子はいわゆるお調子者といった感じで、初対面の僕に対しても鼻くそをほじる真似をし、いじめられている男の子を指さして”こいつ鼻くそほじってん”と僕に伝えてきた。
何も言い返せず俯く男の子を見て、何かしなければと思った僕は、「俺も鼻くそほじるで」とその場で鼻くそをほじって見せた。それを見た男のたちは、ケラケラと笑い、「きもー!!」などと少し盛り上がった後、降りる駅に到着したのか、いじめられている男の子を一人残し、勢いよく電車を降りていった。
溢れ出した正義感から、僕はその男の子の横に座り、「大丈夫か?」と声をかけた。
男の子「大丈夫です。」
僕「君はどこの駅で降りるの?」
男の子「K駅です」
その駅は、その電車の終点であった。
バカにされた悲しさと、1人で終点まで電車に乗る孤独さを不憫に思った僕は、この子に元気になってもらおうと、
「俺も鼻くそほじってみんなにバカにされたことあるねん」
「鼻くそぐらい、さっきのみんなもほじってるで、元気だしや」
など、なんとか元気になってもらおうといくつか励ましの言葉を投げかけた。
その間、男の子はうつむいたままで、さっきのショックを引きずっているようであった。
元気を無くした男の子のために、僕はその子が好きな話題を見つけようと、流行っているアニメの話などをしていると、電車は次の駅に到着をした。
扉が開くと同時に、満員電車の中から大勢の人が降りていく。僕は降りていく人の波に目をとられ、男の子の方に向いていた目線を一度外した。
するとその時、男の子は胸に抱えていたランドセルと、床に置いていた手提げ袋を急いで手に取り、立ち上がって、降車する人の波にのまれていった。扉から出る際に少し見えた男の子の横顔は、絶対に振り返ってはいけないという決意が宿ったかのように、真っ直ぐ前を見ていた。
うん?降りる駅終点って言ってたよな。。。。。
そりゃそうか、いきなり知らん男に横に座られて、鼻くそがああだこうだ、元気だせだああだこうだ言われたら怖いよなぁ。
ポツンと空いた隣の席を見て、僕は反省した。正義感から男の子を励ますことが絶対善と捉えて声をかけたが、あれっておせっかいやったんやなぁ。
ごめんな。
人の流れが収まったホームのベンチで一人で次の電車を待っている男の子の姿が目に浮かび、次は僕がうつむいた。
完