24時間ハイブリッド営業(無人+有人)、新感覚で自由な書店体験
5分で読める、最新の経営ヒントを毎朝お届け。日経新聞の記事の中から、マーケッター視点で「今、知っておくべきデータ」をピックアップ。ビジネスマンの「やりたい」の成功確率をアップしてもらいたい!そのために、必要な視点やマーケティング戦略立案のノウハウを紹介しています。
記事の要約
出版大手のトーハンが運営する書店「山下書店世田谷店」で、LINEのアカウント登録と店頭のQRコードを使った24時間無人営業を試験的に導入した。実証実験の結果、夜間や早朝の営業時間拡大により利便性が向上し、売上も前年比1割以上増加した。安全面でも目立った万引き被害はなく、抑止力が働いているとみられる。トーハンはスタートアップのNebraskaと資本業務提携を結び、同システムをグループ内の複数店舗に順次導入していく計画。将来的には、個人の購買履歴を活用した販促も検討している。24時間営業の書店は日本ではまだ珍しく、持続可能な書店の新たな形態を目指している。
24時間営業実現の背景
書店の24時間営業は、これまで実現が非常に困難であった。営業時間を夜間にも拡大すれば、売上拡大の可能性が見えてくるのは自明のことだ。しかし、深夜も営業を続けるためには、大きな課題をクリアする必要があった。
具体的には、夜間営業の売上増に見合うだけのコスト負担が避けられない。人件費の継続的な支出に加え、深夜の設備運用や警備の費用がかさむ。さらに書籍の万引き被害も夜間には拡大することが予想される。これらのコストをすべて考慮すると、深夜営業の採算は極めて厳しいものだった。
この困難がようやく克服されたのは、最近のデジタルトランスフォーメーション(DX)を活用したおかげだ。スマートフォンの個人認証とセルフレジ決済の導入が、夜間営業のハードルを一気に下げることに成功した。トーハンの取り組みは、ITが業界の常識を変えていく力を如実に示している好例だ。
新たなターゲットとマーケティング機会
24時間営業を実現することで、書店にはこれまでにはなかった新たなマーケティングの機会が訪れる。深夜の来店者はもちろんのこと、朝型ライフスタイルの人々も新たな顧客層となり得る。
中でもシニア世代の早朝需要は見逃せない。健康寿命の伸長で、高齢者の活動時間は確実に早まる傾向にある。生涯学習意欲も高いシニアにとって、書店は重要な情報源となる。ゆったりと時間をかけて本を選ぶことができるMeaningを提供できる好機だ。
さらに、セレンディピティ(偶然の発見)を楽しむことは、書店の大きな魅力のひとつである。24時間営業にすることで、思いがけない発見の機会が大幅に増えることになる。単に既存のニーズに応えるのみならず、新たな価値観や関心への気づきを提案することが可能となる。この点こそ、書店ならではの新戦略といえる。
労働力不足への対応としての側面
もちろん、IT技術の活用には物質性が失われるといった課題もある。従来の書店文化では、店員とのコミュニケーションが大切な要素であった。しかし小売業界全体の深刻な人手不足を考えると、この流れは避けられないのが実情であろう。
店員の確保がますます困難になれば、書店そのものの経営存続が危うくなる。無人化は、やむを得ない選択として、小売業の新たな姿を示唆しているとも取れる。人手不足への対応は喫緊の課題であり、テクノロジーをうまく活用することがカギを握る。
業界全体の変化の兆し
トーハンの取り組みは、日本の書店業界に大きな変化の兆しをもたらしている。日本では24時間営業の書店はまだ珍しいが、同社の成功を追随する動きが今後活発化する可能性が高い。
業界全体の変革において、先行する企業が果たす役割は非常に大きい。トーハンが標準的なモデルを示し、新技術との親和性を高めていけば、他の書店も安心して追随できるはずだ。業界をリードする同社の意欲的な取り組みは、高く評価できるのではないか。
今日の問い
24時間営業の書店が実現した背景には、どのようなビジネス環境の変化があるでしょうか?自社のビジネスにも同様の変化はあるでしょうか?
テクノロジーを活用して効率化する一方で、従来の顧客接点が失われることへの配慮は必要不可欠です。貴社ではテクノロジーとアナログのバランスをどのようにとっていますか?
新サービスの導入には、成功する企業の動向を参考にすることが有効です。貴社では業界トレンドを把握する仕組みはあるでしょうか?先進事例の吸収力がカギを握りそうです。