(ネタバレなし)早咲きのくろゆりがめちゃくちゃ良かったという話
こんにちは。寒々しくなってきたこの頃いかがお過ごしでしょうか。一般的に、夏は陽気、冬は陰気というイメージがありますが、実際に日照時間の関係で冬季にうつ症状が出る方もいらっしゃるそうですね。
今回は、そんな冬に向かう今にぴったりの、めちゃくちゃかわいい絵柄から繰り出されるめちゃくちゃ重いADVゲーム「早咲きのくろゆり」をご紹介します。
正直自分はナメてかかっていました。最初は「システムが斬新だし百合も嫌いじゃないからやるか」くらいのテンションで始めたのですが、日曜の昼間に開始して、日を跨いで午前5時までぶっ通しでプレイしていました。月曜日なので当然仕事があるのに。
この記事を読んでいる方の中にも「絵柄がかわいいだけでしょ」と思っている方がいるかもしれません。今日はそんな皆様のために、本作がどうおすすめか、について語っていきます。
「しんどい」レベルの重さ
このゲームを語る上で真っ先に挙げたいのはストーリーの"重さ"です。一見してそうは見えませんが、本作は「未成年に対して高い致死性を持つ謎のウィルス」が流行してしばらく後の世界が舞台となっています。人口を刈り取る形をしていますね。
この世界の日本は、国民の身体の安全のため体にマイクロチップを埋め込んでいたり、激減した若年人口を補うため国主体で「はぐくみ政策」という出生率増加を目指した政策を実施したり、ウィルスの影響で今とは生活が激変しています。
また、ウィルスによって国が破綻しかけるくらいの被害が出たので、犯罪者には謎の“矯正プログラム“が実施されるわ、子供が生めない同性愛者が差別的に見られるわ、中々な情勢となっています。設定だけ抜き出したらマザーコンピュータが市民を管理していてもおかしくありません。百合ゲーの姿か?これが…
そんな中で、受験も終わり、大学進学前のわずかな時間を楽しく過ごそうとする、近江谷樹(オオミヤイツキ)、笹森花(ササモリハナ)、二色青(ニシキアオイ)の仲良し三人組は「高校卒業前にやり残したこと」を単語帳に書き連ね、それを実行していく"単語帳の回収"を行っていきます。
端的に言ってしまえば、この単語帳の回収をする中で主人公の花が同級生の樹に恋をする、という流れでストーリーが進行していくのですが、これがとにかく重い。
そもそもこのゲームは一部"ループもの"になっていて、主人公の花は度々見舞われる惨劇をループにより解決していきます。
その惨劇も
等々、本当に散々です。
勿論、所謂百合作品というのは昔から"重い"ものも多数あります。重さだけで言えばこれ以上のものもあるでしょう。
ただ、このゲームは単なる重さというより、あまり触れたくない、見聞きしたくない、リアルな感情の嫌さが後半に出てきます。
これに比べたら上に挙げた2つの参事なんてまだ優しいものです。このゲームは豪華なことにフルボイスなのですが、後半は嫌すぎて文字だけ見て読み飛ばしていました。それくらいしんどいです。アニメで言えばココロコネクト、映画で言えばヘレディタリー/継承くらいしんどい。
しかし、このしんどいくらいの重さ、嫌さがあるからこそ本作のテーマがとても映えます。良い面も悪い面も含め「人が人を好きになるということ」がどういうことなのかを考えさせられますし、登場人物達の幸せを心から願ってしまいます。あとはめちゃくちゃキャラが好きになるので、所々で幸せそうな場面を見ると本当に「良かったねぇ;;」だけで感情を支配されます。この時に脳内メーカーをやらせたら面白そう。
ADVとして斬新なシステム
本作はADVで一般的な選択肢というものがありません。代わりに、作中人物の発言をヒントにして、会話に選択肢を「割り込ませる」システムが採用されています。
正直に言うとこのシステムはかなり粗削りです。「選択肢」としての自由度もそこまでありません。
では何が良いのか。このシステムの評価すべき点は、ゲームに積極的に参加出来る点、言わばプレイヤーとゲームとの双方向性です。
これは持論ですが、ゲームが他の作品メディアと大きく違う点はプレイヤーが作品に介入出来る点であり、それにより生じる没入感が優位に働くと思っています。その点において評するなら、より表現メディアとしてのゲームの本質に近い作品であるとも言えます。
ADVというジャンルは、例えるならベルトコンベアに乗ったストーリーを横から俯瞰し、たまに出てくる"選択肢"というボタンを押すようなもので、これが一般的です。
しかし本作はというと、"選択肢"はベルトコンベアの上に散乱していて、ボタンを押すためにはそれを能動的に探さなければいけないのです。つまり、ゲームから与えられるだけではなく、こちらも腰を上げて作品に参加しなければいけないのです。
これがどういった効果をもたらすのか、それはストーリーへの没入度合いに差が生まれることです。ヒントを探すために集中して読む分、否が応でもキャラクターの気持ちを考えようとしますし、プレイ中はこの世界に入って物語を俯瞰しているように思えます。終わった後は気持ちのいい読後感もありました。実際のところ、終わった後は自分が存在しているのはこのゲームの中ではなく、マジの現実なんだと思ってしっかり落ち込みました。
ここまで聞いて「なんか難しそうだな…」と思ったかもしれませんが、なんとこのゲームはADVながら難易度が3段階用意されていて、そういう思いもしっかりケアされています。
ちなみに私は中間のカジュアルで遊びましたが、読み物としてもゲームとしても丁度いい塩梅でプレイできました。ストーリーに集中したい人も、ゲームとして楽しみたい人も等しく遊べると思います。
後は単純に推理ゲーム的な要素も含ませられることが素晴らしいですね。適切な選択肢を手に入れていなければゲームを進めることが出来ないので、ぴったりハマったときはめちゃくちゃ爽快です。逆転裁判やダンガンロンパをプレイしているときと同じ脳の部位が活性化していたことでしょう。
総合して評価してもこのシステムはかなり良いと思います。是非これを洗練した別作品も見てみたいです。
アツい展開
先に結論だけ言います。このゲームはかなりアツい展開があります。
花が「自分は樹ちゃんのことが好きなんだ」という思いを吐露するシーンや、何度挫折しそうになっても諦めずに自分の気持ちに向き合う芯の強さ、それらに恥ずかしげもなく胸を打たれてしまいました。
後はオタクの9割が好きと言われている「伏線回収」と「タイトル回収」もあります。自分はこの2つがあるだけで親を殺されても許せてしまうかもしれないくらいそれらが好きなので、心の中で(うおおおおおおおお!!!)と叫んでいました。隣室にテレパシー能力者がいたら壁ドンされていたかもしれません。
ゲームやアニメでうおりたい人におすすめです。深夜にうおってテレパシー能力者をキレさせましょう。
不満点
一応レビューなので、不満点も挙げていきます。
①人によっては地雷かもしれない
前述しましたが、このゲームはかわいらしいイラストに似つかわしくない程重い展開が続きます。人が死ぬとかグロいとか、そういうものはありませんが、「どうしてもこういう展開は…」という人がいるかもしれません。特に、胸糞悪いものではありませんが、百合作品にも関わらず、主人公-ヒロイン-同級生の男の子の間で三角関係になる描写もあるため、それらがあると絶対無理!という人は厳しいかもしれません。
②序章が長い
本作は序章を経て、1章から割込み選択肢等の本格的なゲームに移っていくのですが、キャラクターの心理描写に力を入れているからか、最初の序章がめちゃくちゃ長い。序章を読み終わるまでで普通に数時間かかります。勿論、ゲーム全体で言えば必要だし面白いのですが、ここで諦めてしまう人もいるかもな~とは感じました。アニメのシュタインズ・ゲートにおける1話~9話だと思って頑張って読みましょう。
③システム面で少し気になるところがある
自分のプレイ環境による問題かもしれないのですが、花のボイスだけ少し音が割れているように感じました。そこまで気になるところではないので気にしない人なら大丈夫だと思います。あとは割込み選択肢のリプレイ性がもう少し快適だとよかったかなと感じました。
最後に
途中にも書きましたが、このゲームは「人が人を好きになるということ」を単なる綺麗事として捉えず、それが持つ良い面と悪い面、どちらも同様に、過酷な近未来の日本に住む花達を通して真っすぐ描いています。
だからこそ「人を好きになる」ということの美しさを感じることが出来る素晴らしいゲームだと思います。
後は、単純にストーリーが良いゲームがしたい、推理(っぽい)ゲームをしたい、みたいな人にもおすすめです。
ちなみに、自分はまだ語り足りないので(このキャラのここが良い等)、後でネタバレありきでこのゲームについて語る記事を書こうかなと思います。
(追記)書きました。
※おまけ
サブキャラの一色藍(イシキアイ)です。私がこのゲームで一番好きなキャラは主人公の花ですが、このキャラのデザインとか精神の成長性や心持もとても好き。