(ネタバレ激有)今日は「早咲きのくろゆり」を好きなだけ語っても良い日
こんにちは。本日は最近発売されたADVゲーム「早咲きのくろゆり」についてネタバレを気にせずめちゃくちゃに書きなぐりたいと思います。また、ネタバレなしのレビューは以前に投稿しているので、未プレイで気になる方は是非見てみてください。それと、本記事はプレイした前提で語っていくので基本的に注釈等は挟みません。
①花がちゃんと樹のことを理解しているところ
まず何から語るのか、なんといっても本作のメインとなる花と樹の2人ですよね。この2人について「何がどう」と話そうとしても情報量が莫大すぎて困ってしまうので、特に印象深かった点をピックアップしようと思います。
樹は結構前から他人から求められる「自分のキャラ」を気にしてしまうところがあるようで、クリア後の要素である樹編にて『かわいらしいキーホルダーが合わないと言われたから落とし物に見せかけて捨てようとする』エピソードが出てきます。このエピソードでは、捨ててその場を去ろうとしたときに花が現れて、捨てたキーホルダーを拾って「似合っていた」と言ってあげます。"自分のキャラ"にとても縛られていた樹にとって、この言葉はとても救われたような気持ちになるのでした。
これはこれですごくいいエピソードなんですが、自分が特筆したいのはそこではなく、ゲーム序盤にあります。ゲームが始まって、プレイヤーが世界観やキャラクターを覚え始めたところで、「しんみりしちゃって私のキャラじゃないよね」という話を樹が花に話すシーンがあるのですが、そこで花はしっかりと「らしくないなんてことないよ」と言ってあげているんですよ。プレイヤー視点から言えば既に、花は樹に「キャラに合っていないなんてことはない」と伝えているんです。
これに気付いたときは心が震えました。しかもこういう『花が樹をキャラに当てはめない』という描写はこの後にも散見されるんですね。そうやって本編終了後に樹の口から「救われた」と答え合わせが来る構造になっている。こんなもの言わば感情の伏線回収ですよね。そりゃ樹も療養を経て花のことを好きにもなりますわな、とすごく納得してしまいます。
②4章
4章はその存在そのものが特筆すべきと言うほかありません。4章では、その前までで何度か描写されていた"青と藍の関係"について切り込んでいきます。
別れの焦燥感から急に告白してしまった藍と、妹のように思っていた存在から恋愛感情を向けられていたという衝撃に返事もなく突き放してしまった青。その決着をつけるべく藍はもう一度正面から告白し、その想いを今度はしっかりと受け止め、応えることは出来ないと青は答えを出す。お互いの想いに決着をつけた2人は、これまでの姉妹のような関係に戻ることはないとわかっているのにどこか晴れやかだった、という話。
私はこの物語に出てくるキャラが全員好きなのでこういったことは言いたくないのですが、はっきりと言ってしまえば、ゲームとしてのこの章は「都合よく好きという想いが結実するわけではない」という前振り、つまり花と樹が結ばれるという結末を引き立てるものであるとそう考えています。
本編中でも、決着がついた2人を見て「告白するにも関係性と段取りが大事なんだ」と心の中で思ったり、自分の気持ちを爆発させないよう(=不適切なタイミングで告白しないよう)にする終盤の花の姿が描写されています。
ただ、そんなことはどうでもいい!!!
周囲の助けを得ながら"自分がどうしたいのか"を見つけられた藍と、その想いをきちんと正面から受け止めて、同情等なく対等な立場として結論を出した青、この関係性がもう本当に素晴らしいです。それと、普段は大人びている青も突然の告白に動揺して、何が正しいかわからず藍を突き放してしまうところは1人の少女なんだな…と思わせられるし、そのことについて年長者としてきちんと謝れているのが偉すぎる。
あと、事後的とはいえ「告白してしまったら以前の関係性は保てない」という覚悟を決めて"返事"を貰うところ、結果フラれはしたが、それでも諦められない自分の気持ちに嘘をつかずに青を追いかけるその姿勢、これらの藍の心持は本当に素敵だと思いました。
それと、未来編で藍が青を追いかけて自力で調べて同じ大学まで来たところも良かったですね。初対面の振りをしつつも、髪を伸ばしたりシックな服装で少し大人っぽくなったり、そもそも本名を名乗っていたりで、語らずとも一色藍であること、青を諦めきれていないことがバレバレの藍。それに対し、驚きつつも("妹"は死んだんだものね)と新しい関係を受け入れる青。これからの未来を想像せざるを得ないとても良い、青と藍にとってのエピローグだったと思います。
このゲームに共通しているのですが「"妹"は死んだ」とか「呪い」とか、マイナスな言葉をプラスの意味で使う表現方法はとても良いと思います。異性間で付き合うこと、及び出産が推奨される、幸せとされる世界で、そのどちらも満たさない、マイナスのイメージを持つ同性愛であっても幸せになれるんだぞ、という言外のメッセージを感じます。
③蛎崎編と五十嵐倫編
この2編に共通することとしては、物語中で「ヘイト役」であった、ということです。樹を想う花に感情移入させる物語で、同じく樹を狙おうとしていた蛎崎、そして(一応の?)黒幕である五十嵐倫。2人ともその胸中を完全には回収されずに本編は終了していきます。
そうして公開されるこれら2編ですが、特筆すべきはきれいなヘイト管理であることでしょう。私個人としては、2人とも「こうなんだろうな」と推察出来ていたので(特に蛎崎)そこまで大きくヘイトが向くことはありませんでした。それでも、2人に向けられたヘイトを綺麗に回収していくのは物語の構造としてとても嬉しかったです。
まず蛎崎ですが、個人的には主人公花のifの存在として描写されているんだなと蛎崎編を見て思いました。花は"矯正"に屈せず想いを貫き通しましたが、蛎崎は折れてしまった。言わば裏主人公とも言えます。「同性を好きになった」という共通点を持ちながら、自分のように心を折らず、自分の"好き"に嘘をつかないでいる花のことを、蛎崎は眩しく思うも、きっと救いになったのではないかと思います。そう思うと観覧車で宣戦布告するシーンは主人公2人がぶつかり合う重要なシーンだったんでしょうね。
(仕方ないとはいえ)心が折れてしまい、自分の想いに嘘をついて生きていこうとした蛎崎。それを「だせー事」と一刀両断することで励まし、味方でいることを伝えることで立ち直らせる櫻井。別にBLの趣味はありませんが、純粋な人間関係という意味で蛎崎と櫻井もすごく良い関係だと思います。
あと蛎崎→櫻井だけでなく、櫻井も蛎崎のことを(少なくとも人間として)好きであるという描写がされていることもかなり良いですよね。
しかも、蛎崎にとって涙とは隠したいこと、恥ずべきことだと思っているのに、それを櫻井は「おもしれー」と言ってくれる。たとえ蛎崎が櫻井に思いを告げて、それが実らなかったとしても、櫻井は決して拒絶しないんだろうなという安心感を覚えます。
そして五十嵐先生です。五十嵐先生は作中でのヘイトをかなり買った上に、思い慕っていた笹森幹は既に故人。たしかにしたことは罪であるけど、このまま何も救われずに終わりなのか…?と思っていました。五十嵐倫編が始まっても「過去編だし、過去改変できるわけじゃないしな…」と思いながら、幹への想いが自身への呪いとなっていく五十嵐先生をただ見守るしかありませんでした。
そうやって五十嵐倫編が終了した後に出てくるのがこの実績なんですよ。
え、マジ?と声をあげてしまいました。花がVvr矯正を受けている間以外の時間や、"想い出"で割込み選択肢が実行できないことで思い込みが刷り込まれ、可能性の検討すらしていなかったのに、全部終わってからこれ出す?アツすぎるだろ…。
しかもこれで変えられる"ささやかな運命"というのが、「同性愛は社会的に認められないからフラれた」という誤解を「浮気になってしまうからフラれた」という認識に正すだけ。たったこれだけなのに、五十嵐先生にとっては人生をずっと縛り付けてきた呪いを晴らすものになるというのも美しすぎる。決してご都合主義ではなく、考えうる可能性の中で最も妥当な、順序だった結末を迎えてきた本作にきちんと沿ったオチだなと思いました。
しかも、本編終了後の「〇〇編」も、実績でヒントを出すやり方も、全てゲームでないと出来ない演出で、製作者の方が"ゲームで出来る表現"を十分に検討してくれたんだなと思って、それも嬉しくなってしまいました。
【備考】
書いているとキリがないし、書きたいところは大体書けたのでこのへんにしておきますが、作中で気になった細かいことを備考として書いておきます。DLCで回収されると嬉しいですね。
・花視点での物語開始時、Vvrの自動メッセージと思われる音声が入っていたり、花自身が過去を回想するような語りだしだったのはなぜなのか。
・花と樹の初対面が、それぞれ着替えのシーンとストラップのシーンで異なっているのはなぜなのか。ストラップ→着替えの時系列?
・五十嵐倫編で最初にVvrの自動メッセージが流れていること、割込み選択肢が実行可能であったことから記憶の再生を行っているのは確かだが、誰がなんのために行っているのだろうか。
結びに
これだけ語ってきましたが、本当は細かい語りたいところがたくさんあります。出来ることなら本編を頭からプレイして副音声みたいに全部語りたいくらいです。
また、前回の記事を投稿したところ製作者の方や出演されていた声優の方がX(旧Twitter)でリポスト、いいねしてくださって光栄でした。特に、二色青役の呉羽藍依さんが生放送で「あっという間に午前5時になったという感想も見たんですけど」(自分が前回のnoteにそう書いた)と仰ってくださってとても嬉しかったです。
勿論言うまでもなく、それ以外の方の反応も同様に嬉しかったです。前回及び今回はただのレビュー投稿なので、自分のことについて話すのはあまり良くないとは思いますが、それはそれとしてこの場で感謝申し上げます。
値段も手頃で、それなのにゲームボリュームたっぷりで、今後DLCも控えている本作ですが、個人的にはストーリーが主軸のゲームの中でもベスト5に余裕で入るくらい好きなゲームです。今回のレビューで気になった方は是非プレイしてみてください。それではまた。