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世界自然遺産 〜 知床編② 自然を守るために 〜

今回は、知床の保護・保全活動に着目してお伝えしていこうと思います。

知床が、世界自然遺産になるための準備は、簡単なことではありませんでした。

多くの人が協力してくれたおかげで、現在の知床があるのだと思います。

その歴史を少しではありますが、私の知っている範囲でお伝えしていこうと思いますので、今週もよろしくお願いします。


しれとこ100平方メートル運動が始まるまで

知床に住んでいる人なら多くの人が知っている活動です。

ですが、知床から離れると、北海道民であっても知らない人が多い活動だと個人的に思っています。

この活動の歴史・内容を知っていただきたいと思います。

下の画像をご覧ください。(少し見づらくてすみません)

知床半島
上の画像の青四角の場所(1974年)

1964年以前、上の画像の青四角で囲まれた場所は、農業などを行いながら人が住んでいました。

ただし、水利が悪く、転石も多かったため、徐々にその地を離れていく人が増えました。

1964年から国立公園に認定されていた知床でしたが、この地を不動産業者に買い取られてしまいます。

その面積が約100haです。

このままでは、自然豊かである知床の一部の地域が、観光や経済のために土地開発されてしまう危険性がありました。

このままではいけないと思い、当時の町長である藤谷豊さんは、国や北海道にこの土地を買い取ってほしいと何度もお願いしたそうです。

ですが、一度住民が住んでいた場所を買い取ってもらうことは難しく、その想いは叶わず終わりました。

藤谷さんは、東京に知人も多く定期的に会い、知床の未来の話をしていたそうです。

「知床をどうにかしたい」という、その想いには私自身も心を打たれました。

その想いが叶ったのか、朝日新聞朝刊の「天声人語」欄でイギリスのナショナル・トラスト運動というものを目にしたそうです。

ナショナル・トラスト運動とは、市民が自分たちのお金で身近な自然や歴史的な環境を買い取って守るなどして、次の世代に残すという運動です。

「これだ!」と思った藤谷さんは、東京の知人との話し合いを重ねながら、1977年に「しれとこ100平方メートル運動」のスタートさせました。


しれとこ100平方メートル運動 とは

この運動は、全国各地から、知床の自然を守るために、土地を買い取ってくれる人を募集する活動です。

東京の知人が言ってくれた「しれとこで夢を買いませんか」というキャッチフレーズで募集を開始しました。

当時は、100平方メートルの土地を一口8000円で寄付を募りました。現在では、一口5000円で行っています。

ただし、いくつか注意点があります。もともと、自然を守るために始めた活動なので、土地を買ったからといって、その人が好き勝手できるものではありません。

基本的に買われてた土地は、町の私有地になります。

町が責任を持って自然を守る・育てるので、土地を買ってくださいというものです。

現在は、クラウドファンディングなどは流行り、あまり不思議に思わないかもしれませんが、当時にこのことを考え、そして実行に移した行動力は本当に凄いことです。

色々な人からの反感や、問い合わせの電話が相次いだそうですが、諦めずこの活動を行い、ユネスコからも高い評価を得ているそうです。

ナショナル・トラスト運動と同じよう朝日新聞に掲載されるなど、多くのメディアで取り上げられたこともあり、この活動は見事に2010年に達成されます。


1977年
1997年(保全率95%)
2010年(保全率100%)

ちなみに現在でも、募金活動は続いています。

ただし、現在では、「しれとこ100平方メートル運動の森・トラスト」への募金であり、土地の買い取る訳ではありません。

現在の運動参加の特典として

①各種税の控除(所得税、住民税、相続税の優遇措置)
ふるさと納税と同じ扱いです

②100平方メートル運動ハウス内の参加者名簿に名前の記載

③募金証書の発行

動物画家の田中豊美さん作


④森づくりイベントしれとこの森交流事業にご参加できます
⑤しれとこの森通信(森づくり作業報告書)を発送いたします
⑥知床自然センター内の大型映像館KINETOKOの入館料無料に
⑦シンボルバッジ購入権獲得

があります。


しれとこ100平方メートル運動の森・トラスト 〜第2ステージ〜 の始まり


土地を買い取ることに成功した斜里町は、次の段階に進みます。

次の目標は、植林した木を育て、森をつくり、そこに生息していた野生の生き物たちを再び迎え入れるという、自然の生態系の再生をめざす運動を進めていくことです。

1997年6月からスタートしたこの新たな運動を「100平方メートル運動の森・トラスト」と名付けられました。

この計画は、植林などを行うこともあり、基本的にはロングスパンの計画になります。

100年先を目指す長期全体目標、20年毎に定める中期目標、運動地内を5区画に区分して5年で一巡する5年回帰作業計画の3段階の計画に従って作業を進めています。

基本的な取り組みとしては、

①「森林再生」

針葉樹林の育成や、エゾシカ対策などを行っています。

②「生物相復元」

運動地を流れる川にかつて生息していたサクラマスの復元や河川環境の改善などを行っています。

③「運動地公開」
運動参加者の皆さんが、実際に運動地を訪れ、知床の自然や森づくりに触れる「しれとこの森交流事業」の開催を行っています。

詳しくは、「しれとこ100平方メートル運動」のHPをご覧ください。(下記にリンク掲載あり)

1974年
2040年


このような活動の経緯があり、2005年に世界自然遺産として登録されたのが知床です。

自然を守るために、多くの方が協力してくれたのだと思います。

この記事を読んでくださった人には、「凄い」の感想だけで終わってほしくないと考えています。

一度開発されてしまった土地であっても、元に戻すことができるのです。

現在では、土地の開発により、多くの生物が絶滅危惧種となっています。

この現状を深く受け止め、「自分にできることは何か」を考えるきっかけにしてほしいと強く思います。

行動すること、広めること、学ぶこと。ぜひ一歩踏み出してほしいです。

今週もありがとうございました。


参考資料


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