落第作④
HUNTER × HUNTERの大ファンであるぼくにとってぼくの親父はジンだった。
なのでジンの言う、「人に謝るときは次にどうするかを言うんだぞ」という言葉を自分の信条としていたため、今回の愛との喧嘩に関して言っても、今後どうするかを明確にしない限り帰るわけにはいかない、と思っていたのだが、気持ちの良い風に吹かれながら野外で寝ていたら仮睡者狙いの被害にあって、全力疾走で完全敗北したところ、色々なもやもやが払われたような気持ちになり、この際、土下座でもなんでもして1度リセット。リセットなんてものはほんとは存在しないけれども嘘でもいいからとりあえずの空気の持ち直しを得て、そこから2人でこれから先のことを話し合ったりするなどすればいいじゃないかと思った。お互いに言ってはいけないことを言ってしまったし、破ってはいけない約束を破ってしまったが、最終的にどうやって仲直りするかはともかく、とりあえずはどちらが先に謝るかということなどで意地を張るのはやめて、先に頭を下げてしまおう。そう思った。
そう思った時午前2時くらいだったと思うのだが、さすがにその時間に帰るのは申し訳ない。最後の野宿をしよう。そう思いながら自宅付近の公園に向けて自転車を走らせた。
自転車を走らせる前に仮睡者狙いに遭ったことをツイートしたのだが、心配した貞造くんが、〈今どこ?!スマホの充電器ある?〉とツイートを見てメッセージを送ってきた。貞造くんというのは去年ぼくがいた飯場で出会った巨漢で、兵庫の地元にずっといて世間知らずここに極まれりという感じの20代。その時けっこう爽やかな気持ちで、1人でいたい気持ちだったのと、マジで飲み物だけを渡すためだけに車を走らせるゲイの男と同様、この人もマジでスマホの充電器だけ持ってきかねないな、と思って恐ろしくなって、〈天神橋らへんにいるけど、まあ、大丈夫よ〉という返信を送ると、〈車でもう出てる。天神橋のどこ?〉と言ってくるんで、ぼくの3倍くらいの体脂肪率を思わせる彼の顔を思い出しながら、勘弁してくれ、と思って〈ほんとごめん。1人でいたいです〉と返した。『少なくともきみには会いたくないんだよ』という本音を隠して……。
家から程近い、ビッコのイタチが住む公園の真ん中の東屋の円形のベンチで寝て、早朝になるとラジオ体操の音楽で起こされた。こんなに老人が集まっても誰も声をかけてきたりしないんだなと思った。
仮睡者狙いに遭ってメガネも持っていかれたのでラジオ体操の光景はとてもサイケだった。
6番まで続いた。6番まであるのか、と思った。
眼鏡が盗まれるってちょっとウケるな、と思った。