嘆きの風
嘆きの風が谷に渦巻いている
哀しみを滲ませて啼く狼のように...
嘆きの風がこの地上を覆っている
血塗られた歴史への贖罪のように...
嘆きは嗚咽となってこころを叩く
我が子を亡くした母親のように...
汝はこの地上で何をしてきたのか...
嘆きの風はこころを叩く
言葉を忘れた者たちへの鉄槌のように...
穢れを洗った海はいま
その深淵の底から嘆きの声をあげている
言葉を嘲笑った者たちへの審判のように...
鉄槌はその者の肝を握りつぶしながら
最後の時を誓っていた...
山の森と海の森とを繋ぐもの...
それは天地を貫くことばの霊脈
森のことばと海のことばと
ひとがひとで在ることの言葉の命脈
虚ろな刻を隠すために誰かの言葉を奪い取る
自分を持たぬ者が誰かの顔を装うように
怯える者は己が顔を知らない
刻と刻の狭間に嘆きの谷は顔を出す
大地を離れた者たちを留めるように
嘆きの風はこころを叩く
言葉の在り処を知らせるように...
嘆きの風は最後のうたを贈った
時を隔てるファイナルコールのように
嘆きの風は最期の泪を流した
言葉を亡くした者たちへの憐みのように...