神々の審判
長らく気になっていた岩があった...ただならぬものを感じてはいても、安易な解釈を許さず言葉のない問いを発し続けるその岩を、暫く受け留めきれずにいた。
同じようであって違う… 違うようであって同じような模様の連なりのなかから、どこまでをフレームに収めるのか… フレームの与え方で現れて来る問いは変幻自在にその姿を変えてくる… まるでDNAの連鎖を観ているような感覚に襲われる...
言葉なき問いの前に立ち現れたその姿は、現世の混乱と二重映しとなって息づいていた。
血の通わぬ言葉を着た者たちが、己が姿を隠すために誰かの言葉を奪い取ってゆく...あたかもそれが自分であるかの如く装うために...
善人の顔の下で吐いた偽りの言葉を見せられながら、自我は自らの来歴を数えその衣を脱いでゆくのだろう...
借り物の言葉では、深いところから来る問いに答えられるはずもなく、果たされなかった約束を知ることもなく、ひとはまた輪廻の糸に絡めとられてゆくのかもしれない...
時間の幻想が針を進めるごとに、埋め込まれた幻影が頭をもたげてくる...ふたつの幻を生きながら身に着けた衣もまたかりそめの幻影なのだろうか...
この世に来るために必要だった幻を身に纏い、約束の呼び声を何処かに聴きながらも、いつしか忘れてしまった自分をひとは恐れているのかもしれない...
ふたつのまぼろしで織られたタペストリーのように、すでに描かれた物語を私たちは生きているのだろうか...
ひとは自我を忘れたとき、ほんとうの自分に出会うのだろう...そのとき忘れていた約束を思い出すのかもしれない...何のために此処に来たのかを...
混乱のなかで鳴り響く早鐘の如くに、地球もまたそれを知らせているのかもしれない... ファイナルコールのように...
Art MAISON INTERNATIONAL Vol . 26 掲載作品