語られざる神話
ファインダーの中を一陣の風が吹き抜けてゆく...
舞い上がった記憶の砂塵が、現実の光景の上に降り積もってゆくような感覚を覚えながら、夢とも現実ともつかない眩暈のなかで、息を吹き返したかのように、ひとつの言葉を呟きながらそれは堆積してゆく…
まだ誰も聴いたことのない歌のようにひとつの鼓動を打ち始め、現実と幻が二重映しの世界に目覚めた深い呼吸の中で、それはひとつの「時」を生き始めたように感じられた。
私が対峙しているものは、もはや岩石などではなく、深い森の香りを漂わせる衣を纏った神のようでもあり、まだ語られたことのない神話のようにも見える。
やがてその脈動は、私の心臓と同調し、言葉の血潮となって私の全身を駆け巡ってゆく。
私が見ているのか、或いは私そのものなのか… 鼓動は、ある種の音楽となって近づいてくる。それは音楽とも歓喜の声ともつかぬ砂塵を伴って私を吞み込んだ…
歓喜の風は、やがて私の中に遠のいてゆき、私の目に一粒のかけらを残して蒼いしじまに消えていった。
あれは… 遠い過去に聴いた、死と再生の記憶だったのかもしれない...