抜け落ちよ我が無駄毛、と警官は言った
元はね、ヒゲの脱毛がしたかったんですよ。
自分、アゴ髭伸ばしてるんですが、アゴ下の毛は根絶したいタイプなんすよね。
アゴ下の髭の有無で清潔感がかなり変わってくるし(個人の感想)。
だからもうここは、親の仇のように剃っちゃうんですよね。
でも、面倒くさがりで、肌弱めの私にとって、髭剃りってアゴ下だけでも鬱陶しいタスクなんです。
毎朝キレながら肌も切れながらやって、出先で剃り残しを見つけてまたキレる。
こんな日常を受け入れていましたが、ある日天啓が降りてきました。
「アゴ下だけ脱毛するか」
なんてシンプルな回答。
なんでこれまでやんなかったんだよハゲ。
思い立ったが吉日、医療脱毛クリニックでカウンセリング。
その結果、ヒゲとデリケートゾーンを除く全身脱毛をすることになりました。
は?
いや、こっちが「は?」なんだが?
いやぁ、実は体毛も消し去りたくて…。
そもそも、ムカつくんですよね。無駄毛。
ふと自分の手指とか腕を見た時、風呂で自分の裸体を見た時、モサモサの毛にブチギレそうになりません?皆さんも経験あると思います。あるよね?
以前、ブチギレた勢いでブラジリアンワックスで脱毛したことはあるんですが、無駄毛への怒りが痛みへの怒りに塗り替えられただけでした。しかもすぐ生えてくるし。舐めやがって。憎しみの連鎖が止まらない。
そういう潜在的な怒りと悲しみがカウンセリング中に湧き出てきてしまいました。
自分「というわけで、顎下、肘下、胸、腹をお願いします」
先生「そうするともうちょい金額出せば全身出来ますね」
自分「では全身でお願いします」
先生「全身コースはヒゲ対象外なので単品追加します?」
自分「うーん、じゃあ、ヒゲいらないです」
先生「え?」
自分「え?」
かくして、私の全身脱毛への道が始まりました
(ヒゲとデリケートゾーンを除く)
実は脱毛には複数回の施術が必要になるんですよね。
医療脱毛の場合、1回の脱毛で今生えてる毛は大体滅びるんですって。何回もやらないとダメだと思ってたのに。サイアーク様かよ。
でも、毛って実は、次の世代の奴らが控えてるんですよ。
つまり、今生えてる毛を滅ぼしても、第二、第三の無駄毛が現れるんですよね。魔王かよ。憎しみの連鎖が止まらない。
そこで、第二の無駄毛が生えたら脱毛、第三、第四、と順次滅ぼしていくことで殲滅を目指します。四天王システムですね。個人差で五天王だったり二十天王だったりするみたいです。
ちなみに、次世代以降の毛は徐々に弱体化していくそうです。普通逆だろ。クソゲーじゃねーか。四天王システム見直せ。
そういうわけで、1人目の四天王討伐へ。
今回契約したクリニックは上半身と下半身で分けて施術する為、初回は気になる上半身から。
施術担当は清潔感溢れるお兄さん。ザ・美容外科って感じ。キラキラしてら。
先生「腕から行きます。痛かったら言ってくださいね。麻酔もありますんで」
自分「ハ。面白ぇ。俺が音を上げるとでも?いいぜ、試してみろよ。(はーい、わかりましたー)」
先生「チクっとしますよぉ。」
熱ッッッッッ!!!!!!!!
痛みは覚悟していた。
だってネットに散々書いてあるんだもん。
まぁでも痛いの平気だし?全然?やってみろって感じ?
って思ってたんですよね。
でもさ、熱いのは聞いてないよ。熱いと痛いは違うじゃん。
感覚としては熱さ8割痛み2割。
アチアチの焼石を腕に擦り付けられる感覚が1番近い。
どこの国の拷問だよ。
痛みを覚悟して五体全ての筋繊維を一気に駆動させた苦痛で皮膚の痛みを分散ッ!してたのに。
熱いのはダメでしょ。先に言ってよ。
ふと、数日前のことを思い出す。
医療脱毛の先駆者である友人に、こんなことを言われていた。
友達「コウ・ウラキになるよ。」
自分「ならないよ。」
確かに、潜在的コウ・ウラキが発露しそうになった。
なんで適切な例えなんだ、友よ。
そんなこちらを知ってか知らずか、施術はどんどん進む。
焼石が丁寧に右腕を撫でてゆく。
衝撃は去ったが、熱感と痛みにはなかなか慣れない。
額には汗が滲み、頬には深い皺が刻まれていく。
しかし、俺は負けられない。負けられないんだ。
何故ならば。
先生「パワーも調整できますんで」
自分「ウス…大丈夫ス」
先生の優しさを乗せた強烈なサーブを樺地に憑依することでなんとか打ち返す。
ここで弱音を吐くと出力が下げられるかもしれない。
俺のような剛毛人(ごうもんちゅ)には低出力などそよ風に等しいだろう。
ここは負けられない。
先生「麻酔もあるんでね。」
自分「まだまだだね。」
ここは越前リョーマでキープ。
だって麻酔、追加料金取られんだもんよ。
お金払うから勘弁してくれ、って。
そんな情けない姿見せられないっしょ。
なんとか右腕を乗り切り、左腕も越える。
熱さにも慣れてきた。いける、いけるぞ。
このままのペースで俺は走り抜ける。
先生「次はお腹と胸行きますね。腕より濃いから、もう少し痛いかも」
自分「先に言ってくださいよ。」
なんと先生、痛みの少ない部位から順に進めてくれていた。
これだよこれ、これがあるべき四天王システムだよ。
はじめちょろちょろなかぱっぱ。
優しいとこからだんだん慣らしていかないとね。
でもさ、それ、早く言ってよ。
腕如きで勝ち誇っちゃったじゃん。
先生「じゃあ、腹胸いくね。がんばれぇ。」
熱ッッッッッ!!!!!熱いって!!!!
なんなんだよ。腕は雑魚だったって言うのかよ。
先程を超える熱が、小さく弾けるような痛みが、腹上で踊る。
しかも今回は腹胸の大高原。
一回のストロークが長い。
絶え間なく続く痛み。
みんな。脱毛を乗り越えた友人たちよ。
みんなはこんな苦悩を超えてなお、
何食わぬ顔で笑っていたのかい?
なんて強い。人間は、かくも強い生き物か。
熱ィ。痛ェ。
しかし、なんとか耐えれそうだ。
序盤に雑魚の腕を当ててくれたおかげで俺は確実に強くなっている。
最初に腹をやられていたら、俺の命はなかっただろう。
ありがとう先生。ありがとう友人。ありがとうコウ・ウラキ。
先生「次は脇行くね。脇はもうちょい痛いかなぁ」
自分「まだ先がある…だと?」
・・・長い。
長い、長い、戦いだった。
1時間にも満たないこの施術が、永遠よりも長く感じた。
変わってしまった。俺は。
この痛みを知ってしまった。
この痛みを超えた者たちの強さを知ってしまった。
今更、後には引けない。
ここで諦めると、今日の苦しみが無駄になってしまう。
俺は、強くならなければならない。
しかし、確実に俺は強くなった。
あと4回。まずはあと4回。
この苦しみを超えれば見える世界が変わる。
大丈夫。もう怖くない。
俺は痛みを、熱を知った。
俺は、この戦いを、生き抜いてみせる。
先生「次回は下半身ね。下半身の方が痛いです。まだ契約してないけど、ヒゲはもっと痛いかも。大丈夫?」
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