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遠距離恋愛しんどい

今、いつものように自室にいる。

研究室から帰った後は、自室の勉強机に座ってESやらレポートやら片付けなければいけない厄介な文章に取り掛かる。

文章作成が目的の文章作成は大の好物であるが、何かの目的のために行う文章作成は非常に苦痛である。

もっとも、そうした瑣末な文章作成のプロセスの積み重ねがいつしか私の血肉となり、目的となっていったのであろうが。

カタ、カタ、カタ、カタ…

一人寂しく孤独と戦い、私は頭をかきむしる。就職、研究、恋愛…諸々の弱気な不安に襲われるたびに、私は「できることから無心でコツコツやろう……」と呟いた。あまりに何度も呟いたので、やがてその響きが頭の中にこだまして離れなくなった。

できることからコツコツと。

コツコツと。

コツコツ。
コツ、コツ、コツ、コツ…



ブーーーー!ブーーーー!
ハッとして携帯を見ると、恋人からの電話である。

私は飛び上がって喜んだ。なぜなら学部時代には毎日一緒にいた恋人が、今は就職しておいそれと会えない距離にいるからである。

いつものように私ばかりが堰を切ったように喋り続け、それを彼が笑いながら聞いていた。幸せであったが、私には一つの懸念があった。


最近、彼からの連絡が一日一回になった。
常識的に考えれば許容範囲なのだろうが、私は寂しさにどう対処すれば良いのかわからなかった。世の愛されている(ように見える)女性たちは彼氏とどう連絡をとっているのであろう。寂しい時はどうしているのだろう。まさかずっと我慢しているわけではないだろう。しかし、

連絡して!好きって言って!会いにきて!

どの言葉で脳内シュミレーションしても、プラスの反応は返ってこない。ひょっとすると、私には手に負えない繊細微妙な駆け引きが、恋愛にはあるのではないか?
自立して一人でも明朗闊達に過ごしているように見せつつ、あなたがいないとダメなの…とたおやかに甘え、気まぐれな猫のような愛らしさで彼を悩殺する__そんなことは私には不可能ではないか。そもそも私は明朗闊達で余裕のある女では無いのだ。このままでは延々と他愛のない話をするつまらない女になりかねない。

こんな人間と付き合っていて彼は楽しいのか。私は彼を眺めているだけで楽しいにしても、彼は私に飽きはしないか。

そんなこんなで不安に思っていても、前回会った時に行けそうなら6月の最後に東京に行くよと言ってくれたことを頼りにコツコツと1日1日を生きてきた。


「ごめん、6月は厳しそう」


湿度が急に100パーセントになったのかと思うほど、肺に入る空気が重い。
脳の神経細胞が急に半分になったかと思うほど、ディスプレイの文字の意味が入ってこない。

そうか、今月は会えないのか。

頬を熱涙がつうっと滴り落ち、服に染み込んでいった。

悲しい。自分は悲しいと思っている。会えなくて悲しい。

こうなるともう止まらない。昔から自分の気持ちを話そうとすると涙が勝手に出てきて止まらなくなる性分である。

「泣くのはずるくない?」

「泣けば済むと思ってる?」

「被害者ズラするな」

今までの人生でこれらの言葉を嫌というほど聞いてきた。話したい気持ちがあっても、泣くことを気にするとうまく話せない。相手にめんどくさがられて嫌われるのが嫌で、思春期になると自然と人との衝突から逃げるようになった。
当然そうしていると自分の感情について人に伝える機会は減り、余計にたまにやってくる気持ちを話さなければいけない時には喉の奥がぎゅっと詰まって言葉の代わりに涙が出てくるようになった。

相手が自分にとって重要な人であればあるほど、失うのが怖くて気持ちをあらわにするやりとりはすごく苦手である。たいてい迷惑そうな顔をされるから。

「泣いてしまってごめん、責めてるわけじゃなくてただ会えないのが悲しくて」

やっとのことで言葉を絞り出したが、電話口の向こうの相手は呆れているような、疲れているような気がした。

電話を切り、一人涙に暮れ、眠れないまま学校に行った。バスの中でも泣き、授業中も涙目になり、散々であった。



一人に耐えられない私は他の人から見ればさぞ滑稽だろう。しかし、もうこれが私の性質なのだからしょうがない。対策をしようにも、彼氏を3人くらい作る甲斐性も金も時間も無いし、酒とタバコも金がかかる。もちろん会いに行くのも。

だから今日も私は文章を書くのである。文章を書くと、少しだけ問題が構造化できた気がして楽になる。解決策は思いつかないけれど、世の中の問題は、可視化できれば80%は解決できているらしいし、これでもいいのかも。

できることから無心で、コツコツと____

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