故障回復期におけるトレーニング強度のグラデーション
2021年のUTMFに向けた本格的なトレーニングを開始した矢先(ベース構築1週目の最終日。2020年12月末)、後脛骨筋腱炎を発症した。
まともに走れるようになるまで2ヶ月を費やした。
走り始めてからまだ期間も浅く、本格的な故障は初めて。(2ヶ月の故障を本格的と呼ぶのかはわからない。)
ここに故障の原因と、リハビリを経て復帰に至るまでを記録し、学んだ“勘所”を文字に残すことで、同じ轍を踏まないようにしたい。
1.故障の原因
端的に以下2点。
1.急激な走行距離の増
2.急激なトレーニング強度の増
恥ずかしいくらい明白。
足に違和感を感じたのが12/27の朝ラン後。
そこまでの3週間の走行距離は以下。
12/13は昨年の勝負レース(フル)として位置付けていたbeyond(DNF)。そこから3日間の完全レストを経て、12/19からUTMFに向けてトレーニングを開始した。
12/21からの1週目のメニューは以下のとおり。
月曜 rest
火曜 longjog 80min(ave5'08/km)
水曜 easy tempo 40min(ave4'24/km)
木曜 Tpace6000(ave3'31/km)
金曜 Epace60,ws(ave4'52/km)
土曜 hill 16.21km 685mD+
日曜 hill 19.32km 747mD+
レスト週の走行距離が合計41.3kmだったのに対し、故障した週は85.7kmと前週の2.07倍。漸進性の原則を完全に無視。増分は前週の1.2〜1.3倍に抑えたいところなんだけれど。
2.リハビリの失敗
痛みを感じてから17日間のレスト(年始に1回トレイル走ったけど)を経て、日常生活での違和感がなくなり「たくさん休んだしそろそろ走ろう(雑)」とジョグから始めたことが、大失敗。2回目のジョグで足の痛みが再発し、またレストに移行した。
故障(12/27)から走り始め(1/13)までのログは以下。
走り始め1回目のジョグのログが以下。
後半、立ち止まっているのは足が痛かったから。それでも、走れたことが嬉しくて翌日もジョグをした。そのログが以下。
ペースが上がっているものの、3回立ち止まっている。これも足の痛みで、患部をマッサージするために立ち止まった。走り終わってからも熱を持ったジンジンする“走っちゃいけない痛み”が続き、絶望しながらレストに移行した。
3.ターニングポイント
ここでリハビリの方針を変更した。
振り返ってみると、ここがターニングポイントだったと思う。
【変更前の方針】
痛みが引いたらゆるいジョグから始め、徐々に(漠然としたイメージでは1週間程度かけて)距離、強度を戻していく
【変更後の方針】
1.積極的にwalk/bikeを入れる
2.サーフェスをコンクリートから不整地にする
3.走行距離をダニエルズで設定する
詳細は以下のとおり。
4.積極的にwalk/bikeを入れる
考えてみれば、“日常生活”と“ジョグ”は強度の飛躍が大きい。普段生活していて走ることなんてほとんど無いのに(通勤電車の乗換くらいだ)、いきなり30分もジョグするなんて!
当時の自分には“走る”と“走らない”しか選択肢が無く、「0か100か」でしか考えられなかった。けれど、その間には(またそれ以降においても)無限に“グラデーション”がある。そこを積極的なwalkやbikeで“なだらかにつないでいく”ことにした。
特に注目をしたのがwalk。92年のバルセロナ五輪、96年のアトランタ五輪と、2大会連続マラソンでメダルを獲得された有森裕子さんも、アメリカのボルダーを拠点にしていた頃、脚作りのために積極的にwalkをトレーニングに取り入れていたらしい。(以下 参考記事)
これを知ってからは、自分も“歩くことはトレーニングだ”と認識するようになり、Garminでログを取らない通勤の歩き(1日12,000歩)や、昼休みのお散歩もタラタラ歩かずしっかり歩いた。(8'00-'30/kmくらい。歩きでこのペースはかなり速いのでぜひお試しを。)
(参考記事)
マラソンメダリストは「ウオーキングで脚をつくる」(NIKKEI STYLE,2015/4/20)
トレーニング時間の具体的な取り組み方法としては(炎症が落ち着いていることが前提)“jog/walk(◯分ジョグして◯分歩く)”をトレーニングのメインとした。
最初は5分-5分を1セットとして合計45分。そして、段階的にjogの割合を増やしながら、総運動時間も増やしていった。また、週に1-2回、片道30kmある通勤にbikeを使用して(往復2.5H)有酸素のボリュームを確保しつつ、途中でインターバルを挟んで高心拍域での運動時間を入れるよう意識した。(28Cのクロスバイクで時速40km出してインターバルを行うのはけっこうキツい。)
これがもう、凄くハマった。
まず、精神面への影響。
少しづつjog/walkでの走行時間、総運動時間が増えることで、“回復が実感”できた。このおかげで焦りが減り、“走れる満足感”のために無理に走ることをしなくなった。歩くことがトレーニングの選択肢に入ったことで、患部に違和感があったらすぐ走ることをやめて歩けるようになった。これも、故障の再発を抑えながらトレーニングを続けられた大きな要因だと思う。
次に身体面。(前提として自分は専門家ではない)
炎症が落ち着いてからは、患部周辺の固くなった筋肉、腱の柔軟性を取り戻す必要がある。でも固いまま走りだすと炎症が再発or別箇所が痛くなる。jog/walkは足への負担を抑えながら運動できるので、血流を良くして固くなった組織に潤滑油を与える役割を果たし、患部の固さを取るのに良い影響を与えたのではないかな、と考えている。(もちろん、今までないがしろにしていたセルフケアを行い、たくさん寝て、栄養バランスの取れた食事をたくさん食べて、接骨院での施術も受けた)
固さの残る足で無理に走らずに、jog/walkを繰り返したことで自分はスムーズにジョグに復帰できた。bikeをしっかり入れていたこともあり、心肺機能の大きく低下を感じることもなかった。最終的に、朝ランでwalkを一切はさまずに走り切れた時は、玄関先で1人ガッツポーズをした。
5.サーフェスの選択と思わぬ副産物
jog/walk、それ以降のjogのサーフェスを、硬く反発があって足への負荷の大きいコンクリートから、柔らかくて足に優しいクロカン(芝生)に変更した。
故障から復帰した今でもラン全体の8割がクロカン走。普段のジョグ、ファルトレク、ちょっとしたスピード練まで、全てクロカンで行っている。
(ホームコースの公園↓)
やってみて自分が感じているクロカン走のメリットは以下のとおり。
1.足の一部だけに負担が集中しない
特に足首周り。クロカンは柔らかくて凹凸があるから、色々な角度で足部を接地するのだけれど、これがピンポイントな箇所への負担を分散させてくれていると感じる。だから故障明けでもトレーニングのボリュームをキープしやすい。
2.脚力、体幹の強化
NIKE厚底を履いて反発を最大限に活かしながらトラックを走っていた自分からするとこれは明確で、クロカンは地面からの反発が少なく、しっかり踏まないと進めない。おまけに凹凸もあればちょっとした坂もあり、バランスが崩れやすい。速度の変化も多い。
最初は頑張って走ってるのにスピードが出ないことがもどかしかった。速度の割に心拍が高く、走り終わると膝下から足部の細かな筋肉に疲労が残ったり、全身に疲労感やだるさが残ったりした。
数日繰り返していくうちに、段々と速度が上がっていき、RPE(自覚的運動強度)は下がってきて、速度変化時に「よっこらしょ」とギアチェンジに使うエネルギーも小さくなったように感じる。
これは(たぶんだけど)脚力の向上と、体幹が強化されたことによるフォーム改善が影響しているのではないかな〜と思う。数字で見えない部分なので感覚的だけど。
3.思わぬ副産物
故障からのトレーニングのほとんどをクロカンジョグに費やしたことで“思わぬ副産物”があった。
2020年12月上旬のフルマラソン直前に行って以来、3ヶ月ぶりのトラックでのショートインターバルでのこと。
久しぶりだから緊張していたし、自分の感覚では、故障をはさんだ上、スピード練は一切していないから、力んで走っても3'30-40/kmペースが妥当かなと思って臨んだところ、そこまで力むことなく3'00/kmを切るペースでメニューを行うことができた。また、次の週に30分のeasy tempo走を行った際にも、4'00-4'15/kmペースにて、自身が予想したよりも高い余裕度を持って走り終えることができた。
(近所にあるホームトラック↓)
今の自分は、高強度のポイント練を入れた翌日以降は疲労や足のハリで、数日は良いトレーニングが継続できない。けどクロカン走であれば継続してボリュームをキープできる。その上で、自分の得意どころでもあるスピードを失わずにいられるのであれば、こんな良いことはない。続けていく価値は大いにある。ジョグ、easy-tempo走、ファルトレク、ダイアゴナルズなどは今後全てクロカンで行っていきたい。
※ダイアゴナルズ
今季から取れ入れた変化走。名前のとおり、トラック内芝の長方形の対角線を疾走、短辺はジョグで20-30分繰り返す。(時間は個々で調整)ファルトレクに似た感覚重視の変化走だけど、疾走が短い分ハイペースでの疾走が可能なので負荷は大きい。)
それと、何のメディアかは覚えていないが、以下の事例を読んだ。これ見たら、どうせジョグするならクロカンにしようとみなさん思うんじゃないかな。これ、どこで見たんだろうか。
大学陸上部に入学したAとBの2人が、4年間、チームで同じ集団練習メニューをこなした。
入学当初に5000のタイムでAよりも遅かったBが、卒業時にはAよりも速くなった。
2人の差は、集団練習ではなく、個人練習のジョグをコンクリートで行ったか(A)、クロカンで行ったか(B)、という違いによるものだった。
(※なんとなくの記憶で再現)
6. 走行距離をダニエルズで設定する
これは自分が知らなかっただけで、シリアスな市民ランナーには周知の事実だろうから詳細は割愛するけれど、ダニエルズ のランニング・フォーミュラで示されている以下の式に当てはめて、休養明けの走行距離を設定した。
計算式(A=休養前の週間走行距離 B=休養期間)
(1)B=<5days
B日間、Eペースで休養前と同じ距離
(2)B=6-28days
Bと同じ日数を、
前半A×0.5 km(Eペース)
後半A×0.75 km(Eペース)
(3)B=4-8weeks
Bと同じ日数を、
前期A×0.33 km(Eペース)
中期A×0.5 km(Eペース)
後期A×0.75 km(Eペース)+WS
(4)B=>8weeks
3週間ごとに
E(0.33)→E(0.5)→E(0.7)+WS→E(0.85)WS+
R→E(100%)WS+T+R
自分は休養期間が21日間だったため、前期/後期に分けて、故障前の週間走行距離から計算したスケジュールでトレーニングを組んだ。ダニエルズの考え方は安全に競技復帰することが目的のため、かなり慎重で物足りないスケジュールになるけれど、走りたい気持ち、走れない焦りを抑えるためには、数字で走行距離に上限を設定することは効果的だと感じた。
7. Failure teaches success.
2020年12月27日に故障を自覚し、レスト、リハビリの失敗を経て、この記事を作成した2021年2月末現在、足に大きな違和感はなく、ほぼほぼ完治と言って良い状態になった。(まだ筋腱に固さは残っていて、疲労がたまると痛み、ハリが出るため鍼治療や入念なセルフケアは継続する)
2月3週目はレスト週だったけれど、それでも月間走行距離が240km、バイクを含めた運動時間は30時間になる。これはwalkから始めて、継続的にクロカンで10km前後の距離を積み上げた結果の現れ。(1度に20km以上走ることは避けた)
本当は、UTMFに向けて運動時間も獲得標高も積み上げたい大事な時期だっただけに悔しさは残るけれど、失うものは最小限に抑えられたと思う。途中、リハビリに失敗したものの、trial and errorを繰り返して、故障明けにしては上出来なトレーニング量を確保できた。
(2月の運動時間↓)
中学1年の時の担任の先生が作る学級新聞のタイトルが“Failure teaches success.”だったんだけど、今回の故障はまさにそのとおりだった。
自分のトレーニング計画が杜撰で、いかに自分のこと、走ることを知らなかったのかを思い知らされた。この故障をきっかけに、ランニングに関する色々な情報に触れて、補強トレーニング、ランニングメニュー、ケアなど、今後に活かせることをたくさん学んだ。自分の位置もしっかり認識できた。
ここからまたレベルアップして、UTMFに向けた残る2ヶ月をうまく過ごしたい。エントリー当初に考えていたような走りは叶わないだろうけど、今の自分の走りをして、納得できるレースをしたい。そしてしっかりと次につなげていきたい。
自分の目標は2024年。
まだまだこれから。
stay tuned.
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