現代に再降臨したプチサンク5ターボ・RENAULT TWINGO EDC
プロローグ
2023年を以て生産を終える「ルノー・トゥインゴ EDC キャンバストップ」をディーラーさんから数週間お借りすることになりました。
私が所有するポンコツ旧車を延命させるためのメンテナンス整備で長期入庫の期間中にお借りしている代車です。
見た目の可愛らしいフォルムから連想されるマシュマロのようなフワフワ感とは裏腹に中身はかなりブッ飛んだクルマでした。週末に走り込んだ印象をnoteに書き留めます。
パワーユニット
エンジンは控えめな5500rpmで、92PSを発生する0.9L直3過給機エンジン。しかし軽量化の為にスペアタイヤをパンク修理剤に置き換える徹底ぶりで、1,000kg程度の軽量ボディを引っ張るのには十分なパワーです。やや高めの絶妙なギア比と軽さが相まって、まるで翼が付いているかのごとく飛ぶように走ります。良い意味で地に吸い付くよう走るのではありません。地上すれすれを滑空する感覚です。
RRレイアウト
レイアウトは絶滅危惧種のリアエンジン後輪駆動のRR方式。私の知るかぎり他の現行車ではポルシェ911とスマートしか存在しないと思います。背中を蹴飛ばされるようなパワーこそ有りませんが、力強く後輪にトラクションがかかるのはRRの魅力です。
RRレイアウトを確認する為にボンネットオープナーを探しますが、想像を遥かに超えるこのクルマにそんな当たり前の装備などありません。
フロントグリルの左右2箇所の樹脂パーツを外して鍵穴にキーを挿してロックを解除して樹脂製フロントフードを外す仕組みです。ほぼ競技車両の作り込み方に驚き!
フロントにエンジンが無いので荷物を積めるのかなと覗いてみましたが、操舵系補機やバッテリーにウォッシャー液類がきっちり収められて、ラゲッジルームの期待はあっさり裏切られました。
しかしフロントタイヤの広い舵角を確保するためのスペースは十分で、フルロック時の舵角はご覧の通り。
その眺めは正面衝突して車軸が真っ二つに折れてタイヤが明後日の方向を向いている事故車レベル。後輪操舵のフォークリフトのような最小回転4.3mは衝撃的です。
エンジンルーム
リアエンジンの存在を確認したいと思います。まず後方のハッチをオープン。ラゲッジルームに敷かれた断熱材を剥がすとスチール製のエンジンカバーが現れます。
工具不要で6点固定のビスを緩めてカバーを外すとコンパクトに収められたエンジンルームが目に飛び込みます。もちろんエンジンオフですがカバーを開けた瞬間、もしかしたらインパネ辺りで旅客機の客室で良く聞く「ポーン」っていう警告音が鳴ったような気がします。気のせいかも知れません。
セダンと異なりハッチバックなのでキャビンの中で熱いエンジンがブン回っている訳ですが、音と熱が盛大に入り込んでくる訳でもなくお行儀よく躾けられています。
コーナーではアクセルの開け方に合わせて、軽く舵を入れただけでスパッと向きが変わり、手に汗握るスペクタクルを味わえます。マニュアルだったら楽しさ倍増でしょう。
リアが重たいRRレイアウトなので、使い込んだECO指向タイヤで一度後輪がグリップを失って滑り出したら、私のようなアマチュアレベルではコントロール不可能でしょう。
EDCトランスミッション
鬼門のトランスミッションですがAT嫌いの3ペダルMT信者の私にとって2ペダルEDCのダイレクト感は予想外の良質な感触でびっくり。私はただの食わず嫌い王でした。
しかし同乗者(家族)からは高速域でのシフトアップは心地良いけど、発信時と低速時の変速ショックが繊細じゃないと辛らつな感想。クルマに一切興味がなく免許証を持たない人の感覚的なつぶやきは大抵においてカミソリのように鋭く核心を突くものです。
EDCはATではなくクラッチミートを機械が代行しているだけなので、ドライバーの優しさがダイレクトに伝わるのはやはりマニュアルなのかも知れません。
総括
このRRレイアウトからプアマンズポルシェとよく言われますが正確にはプチ・サンク5ターボです。
今どきの安全で快適な装備で固められたクルマに乗り慣れた方がコレに乗ったら、後頭部をハンマーでブン殴られたような気分を味わえると思います。
残念なのは4点。だるいステアリングとブレーキフィールの悪さ、タコメーターが無いインパネ設計、ドライバーに不自然な姿勢を強いられる右ハンドル車のペダルレイアウトです。
遊びの少ないクイックステアとタコメーターは必要ないキャラクターのクルマであり、どうしても欲しければタコはアフターマーケットで後付け可能ですし、リニアなステアリングと制動力はルノースポールの領域であって一般車両なら常識の範囲でしょう。
改善課題はペダルレイアウトです。右足の踵をカラダの中心に置いて右膝を外側に開き、爪先を右斜め方向に向けなければAペダルを踏めません。
ショートノーズのコンパクトカーはタイヤハウスが足元スペースに干渉するので、本国仕様が左ハンドル設定の輸入車を右ハンドル化すること自体に物理的な無理があります。これは永遠の課題であり、乗り物すべてに於ける最良の選択は本国仕様です。
以上の観点から、もし私が自分の愛車として選択するならば、左ハンドルの過給機付きマニュアルミッションの一択ですが、ルノージャポンさんの話ではこの設定は日本仕様にないそうです。やはり私は異端なのでしょう。
日本市場向け車両はすでに輸入を終えて、国内在庫かぎりの販売で終了だそうです。決して万人向けのクルマでは有りませんが「fun2drive」な車体は希少で、日常の生活道路が手に汗にぎるWRCワールドコースに変わります。
エピローグ
お借りした車両はキャンバストップ仕様でオープンエアが気持ちよく、愛車の延命メンテナンス整備完了までRRの世界をココロゆくまで楽しみたいと思います。来週末も走りに行こう。
fin 🇫🇷