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新進気鋭のデザイナー Kate Barton:FORBES 30 UNDER 30

今回ご紹介するのは、米国のファッション業界で急速に注目を集める新進気鋭のデザイナー、ケイト・バートン(Kate Barton)です。大学時代までは、ファッションデザインに縁がなく、「自分はクリエイティブな人間ではない」と思い込んでいた彼女。しかし、その常識を覆すような大胆な挑戦と、従来の概念にとらわれないクリエイティブな手法で注目を集め、アメリカ国内のみならずヨーロッパのファッションアワードでも大きな評価を得ています。

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本記事では、ケイトがファッションを志すに至った経緯、ブランド立ち上げの道のり、独自のパテント(特許)取得デザイン、SNS・レッドカーペットへの露出戦略、そしてこれからのビジョンを深掘りしながらご紹介します。ファッション分野に興味のある方や、クリエイティブなキャリアを模索している方には特に参考になる内容です。


1. ケイト・バートンの幼少期とファッションとの出会い


1-1. 「ファッションは、自分には関係ない」と思っていた少女時代

ケイトは、アメリカ中西部・カンザス州で育ちました。家族や周囲にクリエイターやアーティストがいたわけではなく、そもそも「ファッションデザイナーになる」という発想すらなかったそうです。彼女自身も「『クリエイティブな道は自分には無理』とずっと思っていた」と振り返ります。

それでも大学生になり、服のスタイルやファッション自体に興味を持ちはじめたものの、「ファッションデザインなんて自分にできるわけがない」という思い込みが強く、最初はマーチャンダイジング(ファッションビジネス)寄りの勉強をしていました。しかし、何か「しっくりこない」感覚もあったといいます。

1-2. きっかけは、インターンシップと“ウソ”の履歴書

そんな彼女の運命を変えたのは、ニューヨークのファッションブランドでのインターンシップでした。履歴書には、「ファッションデザインを勉強中」と書きましたが、実はデザイン経験も裁縫経験もほとんどゼロ。「初日に“縫ってみて”と言われてYouTubeでやり方を調べた」というほど、実践的な知識はまったくなかったのです。

ところが、与えられる新しいタスクに次々と挑戦してみるうちに、「これならできるかもしれない。問題を一つ一つ解決すれば形になる」と自信が生まれました。こうしてファッションデザインの面白さに気付き、「やっぱり学び直したい」と思うようになったケイトは、大学院レベルの短期プログラムがあったサバンナ芸術工科大学(SCAD)に進学を決意します。

2. グラデュエートスクールでの発見:独自技術とデザイナーとしてのアイデンティティ


2-1. 「枠にとらわれていない」ことが最大の強み

大学院初日は、教授から「生地を使ったファブリック・マニピュレーション(生地の加工)を持ってきて」と指示されました。ケイトは、「何のことだろう?」と検索し、「とにかく文字通り生地をめいっぱい変形させてみよう」と実験的な作品を作成します。周りの学生は、主にトップステッチやフリルといった一般的なサンプルを用意する中で、ケイトだけが極端に大掛かりな加工を披露。教授は、それを高く評価し、「あなたのやり方は面白いから、もっと追求してみて」と後押ししたのです。

もともと「自分にはクリエイティブなバックグラウンドがない」と思い込んでいたケイトですが、「かえって既存のやり方に縛られていない」ことこそが武器になりうる、と確信する大きなきっかけになりました。

2-2. コロナ禍で得た「自分で全部やる」力

在学中に新型コロナウイルスの感染拡大が起こり、リモート中心の制作環境へと変わったこともケイトにとっては転機でした。教授や周囲のサポートに直接頼れない分、すべて自分で試行錯誤しながら作品を仕上げる必要があり、結果的にそれが「何でも自己完結できるデザイナー」としての自信と実践力を育てるのに大いに役立ったそうです。

3. ブランド「ケイト・バートン」誕生の道のり


3-1. ミラノでのアワード受賞と「突然の」ブランド立ち上げ

大学院修了後、「まずは、大手ブランドで働くつもりだった」と彼女は語ります。しかし、卒業後、ミラノで行われた新進デザイナー向けのアワードに参加したところ、なんとイタリアのファッションウィーク関係者が主催する「イノベーション・プライズ」をアメリカ人として初めて受賞。想定外の快挙に「サポートを受けられるから、この勢いでブランドを立ち上げてみよう」という決心に至ります。

3-2. NYコレクション初参加:一か月で準備

2022年に入ると、ニューヨークファッションウィーク(NYFW)の公式カレンダーに応募をすすめられ、軽い気持ちで申請したところ本当に選出が決定。「だいたい1か月前に連絡が来たのですが、そこから怒涛の準備でした」とケイトは振り返ります。はじめは小さなロフトの会場でしたが、編集者やバイヤー、スタイリストなど多くの業界関係者が来場し、初参加にもかかわらず大きな反響を得ることに成功しました。

4. 独自のパテント取得デザインとブランドDNA


4-1. 「内側からドレーピング」する特許技術

ケイトが、大学院時代から追求してきたのは、生地を「内側から」ドレープし、無駄な布をほとんど出さずにボリューム感ある造形を生む手法です。これは彼女自身の実験から生まれ、業界でも「見た目は、金属や3Dプリントのようなのに軽く、しかも着やすい」と高い評価を受けています。彼女はこの技術をパテント(特許)として申請し、正式に取得。「既存の概念がないからこそ生まれた」革新的なアプローチは、ブランドの明確な差別化要因となりました。

4-2. アイコニックな「ゴールドフィッシュバッグ」

多くのメディアで取り上げられたアイテムが、「ゴールドフィッシュ(琉金)」を模した鮮やかなバッグです。実は、大学院時代のちょっとした“冗談”から生まれたデザインだったそうですが、SNSに投稿するとたちまち話題に。「マーケティングに力を入れたわけではないのに、完売が続いて驚いた」とケイト。現在は、生産体制を整え、大規模に展開できるようになっていますが、ブランドの“顔”とも言える存在として多くのファンを獲得しています。

5. ブランド構築とマーケティング戦略


5-1. ソーシャルメディアで得た大きな後押し

「インスタグラムなどのSNSは、新興ブランドにとって強力な味方」とケイトは断言します。従来であれば、有名になるまで何年もかけて実績を積み上げる必要がありました。ところがSNSを通じて、一気に世界中のファンやメディアの目に留まるチャンスが生まれたのです。彼女のデザインの特徴である「驚き」と「新鮮さ」は、ビジュアルプラットフォームとの相性も抜群でした。

5-2. レッドカーペットやドラマの衣装での注目

彼女の作品は、レッドカーペットの衣装としても多く使われ、さらに人気ドラマ『エミリー、パリへ行く』などの劇中衣装にも採用されています。これらは、「あちらのスタイリストがデザイナーを探すときに、自然と目が留まった」という形で始まることがほとんど。「一度誰かが着てくれると、そこから別のスタイリストや作品へとつながりやすい。ファッション業界は思ったより狭い世界」と語ります。

6. 若手デザイナーへのアドバイス


6-1. 「自分で勝手に限界を作らない」

ケイトいわく、ファッションやクリエイティブな業界は、「実際にやってみるまで自分に才能があるかどうかもわからない世界」とのこと。「私だって本当は、“デザインなんてできない”と思っていました。でも手探りでも始めてみたら、自分なりのやり方を見つけられた」と語ります。とにかくまずは行動し、わからない部分は探しながら解決していく、という姿勢が大事だというのです。

6-2. 人とのつながりを大切にする

もう一つ大きなポイントとして、「ネットワークを築くことの重要性」を挙げています。ケイト自身、ニューヨークに来たばかりの頃は知り合いゼロの状態でした。しかし、有名無名を問わずメールを送り、SNSでDMを送り、いくつか返事をもらえたところから人脈が広がっていきました。「一度協力してくれたスタイリストが、別のスタイリストやエディターを紹介してくれて……という連鎖が生まれる」と言います。

7. 今後の展望

7-1. さらなるレディ・トゥ・ウェアとアクセサリーラインへの拡充

夜会服やレッドカーペット向けのドレスで存在感を示してきたケイト・バートンですが、今後はより日常的に着られるレディ・トゥ・ウェアやアクセサリー類を強化する計画です。「私自身も20代の女性として、普段着ていてワクワクするものを作りたい」と意欲を語り、より幅広い消費者層へアプローチしていく方針です。

7-2. チーム強化とビジネスサイドの拡大

彼女のブランドは急成長しているからこそ、ビジネス面のサポート体制も整えたいと考えています。「クリエイティブな部分は私が担いたい。だからこそ、ビジネスやマネジメントを任せられる人材を早めに採用してチーム強化したい」。この体制づくりこそがブランドをさらに拡張し、スケールさせるための重要な鍵だといいます。

ケイト・バートンは、ファッションデザインの伝統的な型にはまらず、試行錯誤から独自のスタイルと技術を確立してきました。カンザスで生まれ育ち、家族にもアート系のキャリアがなかった彼女が、ニューヨークを拠点に世界的な注目を浴びるブランドを築き始めた背景には、「行動力」、「実験精神」、「人とのつながり」を大切にする姿勢があります。

「失敗を恐れずにまずはやってみること。クリエイティブとビジネスのバランスを意識しながら、自分ならではの個性を伸ばすこと」。そんな彼女のメッセージは、ファッションの世界に限らずあらゆる創作・起業の場面でヒントになるはずです。これからもケイト・バートンがどのような革新的な作品を世に送り出し、ブランドを拡大していくのか、ますます目が離せません。


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