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1月の海外スタートアップ資金調達ランキング
2025年の幕開けとともに、米国発のベンチャー資金調達市場では、驚異的な規模のラウンドが次々と成立し、各業界に新たな可能性を示しました。1月だけで、数社が10億ドルを超える資金調達を実現し、さらに多くの企業が2.5億ドル以上のラウンドを完了しています。本記事では、拡張現実、人工知能、バイオテクノロジー、エネルギー、データストレージ、医療、eコマース、宇宙技術など、幅広い分野における代表的な資金調達事例を具体例や引用を交えて解説します。
1. 【AR】Infinite Reality:30億ドル
Infinite Realityは、拡張現実(AR)を駆使してブランドやクリエイターに没入型体験を提供する企業として、今年最大のラウンドとなる30億ドルの資金調達を実現しました。評価額は122.5億ドルに達しており、投資家の詳細は公開されず、「グローバルテクノロジーおよび不動産投資に注力するプライベート投資家」からの資金と説明されています。2019年創業の同社は、過去に特別買収目的会社(SPAC)を通じた上場計画を試みたものの、昨年12月にキャンセル。その後、累計調達額は34億ドルにのぼります。AR技術を活用した新たな市場の可能性が、今後さらに広がることが期待されます。
2. 【AI】Anthropic:10億ドル
ChatGPTのライバルとして注目されるAnthropicは、AIアシスタント「Claude」を武器に、前回の20億ドル投資に続き、今回も10億ドルの追加資金を調達しました。特に、前回の投資では、Googleが20億ドルを提供しており、今回の新たな投資も既存の投資家であるGoogleからのものと報じられています。さらに、Lightspeed Venture Partners主導で60億ドルの評価額を見据えた20億ドルの資金調達交渉が進んでいたことや、AmazonがAI関連企業に対して追加投資を実施している背景からも、AI市場に対する高い期待感が伝わってきます。
3. 【医療】 Retro Biosciences:10億ドル
Retro Biosciencesは、老化や加齢に伴う疾患に挑むバイオテクノロジー企業として、10億ドルの資金調達ラウンドを完了しました。イタリアの著名なフィナンシャー、サンドロ・サルサーノ氏が主導し、アルツハイマー病治療を含む老化関連疾患の臨床試験に向けた研究開発が進められます。注目すべきは、OpenAIのCEOサム・アルトマン氏が2022年に1億8,000万ドルのシードラウンドを提供していた点で、すでに業界内で一定の信頼と実績を得ていることが伺えます。
4. 【エネルギー】 Helion Energy:4億2,500万ドル
Helion Energyは、核融合技術を商業化することを目指すスタートアップとして、4億2,500万ドルのシリーズFラウンドを完了し、企業価値は54億ドルに達しました。投資家には、Lightspeed Venture Partners、ソフトバンク・ビジョン・ファンド2、そしてサム・アルトマン氏などが名を連ねています。同社は、2021年に5億ドルを調達した実績を持ち、昨今は、Microsoftとの電力購入契約やNucorとのパートナーシップによって、2030年代のエネルギー市場での実用化に向けた動きが加速しています。最新の第7世代試作機「Polaris」の運用開始が、核融合エネルギー実現への大きな一歩となるでしょう。
5. 【医療】 Truveta:3億2,000万ドル
Truvetaは、医療記録データを統合し、治療と健康アウトカムの関連性を解析するプラットフォームを提供する企業です。今回、Regeneron Pharmaceuticals、Illumina、及び17の米国医療機関から3億2,000万ドルの巨額投資を受け、非公開企業としての評価額が10億ドルを超えました。2020年創業以来、日々更新される膨大な医療データの解析を通じ、個別化医療やゲノム研究に大きな進展をもたらすことが期待されています。
6. 【データ】 DDN:3億ドル
データの重要性が増す中、DDN(旧DataDirect Networks)は、データの保存、解析、管理に特化したソリューションを提供する企業として、戦略的投資家であるブラックストーン・グループから3億ドルの投資を受け、評価額は50億ドルに達しました。1998年創業の同社は、医療、自治体、クラウドサービス、自動運転など多岐にわたる分野で、AI時代におけるデータの価値を最大限に引き出すための技術革新を進めています。ブラックストーンは、昨年もデータセンターへの総額82億ドルの投資計画を進めるなど、データ関連市場への積極的な姿勢を示しています。
7. 【医療】 Kardigan:3億ドル
心血管疾患治療に特化したKardiganは、シリーズAラウンドで3億ドルの資金調達を達成しました。同社は、独自の心臓専用ツールを活用し、治療候補薬の解析や個々の患者に対する反応を詳細に評価するプラットフォームを展開。Arch Venture Partners、Perceptive Advisors、Sequoia Heritageといった著名な投資家が参画しており、革新的な医療技術で患者のQOL向上に寄与することが期待されています。
8. 【医療】 Innovaccer:2億7,500万ドル
Innovaccerは、医療機関向けのソフトウェアソリューションを提供し、患者体験の向上と医療事務の効率化を図る「ワンストップショップ」として、2億7,500万ドルのラウンドを完了しました。サンフランシスコを拠点とする同社は、B CapitalやKaiser Permanenteをはじめとする投資家の支援を受け、2014年創業以来、累計調達額654百万ドルに達しています。ヘルスケア分野におけるAI技術の活用が、今後の医療改革の鍵を握ると注目されています。
9. 【EC】 Whatnot:2億6,500万ドル
Whatnotは、ライブストリーミングによるショッピング体験を提供するeコマースプラットフォームとして、シリーズEで2億6,500万ドルを調達し、評価額は、ほぼ50億ドルに達しました。ロサンゼルス発のこのスタートアップは、昨年度のライブ販売による年間総取引額が30億ドルを超えた実績があり、消費者の購買行動がデジタルシフトする中で、今後も市場成長が期待されます。
10. 【宇宙】 Stoke Space:2億6,000万ドル
宇宙技術分野では、Stoke SpaceがシリーズCで2億6,000万ドルを調達。ケント(ワシントン州)を拠点とする同社は、完全再利用型ロケットの開発に取り組み、低コストでの宇宙アクセスを実現することを目指しています。新たに調達した資金は、フロリダ州ケープカナベラルにおける「Nova」打上げ装置の建設に充てられる予定です。Breakthrough Energy VenturesやGlade Brook Capital Partners、Seven Seven Six、ミシガン大学など、多数の新旧投資家が参画しており、昨年の宇宙技術分野における資金調達額8億3,000万ドルからの回復を示唆しています。
2025年1月の資金調達ラウンドは、単一のセクターに留まらず、拡張現実、人工知能、バイオテクノロジー、エネルギー、データ管理、医療、eコマース、宇宙技術といった多岐にわたる領域で活発な動きを見せました。投資家たちは、「新たな技術革新の時代において、各分野での連携と革新が求められている」と述べるかのように、将来的な成長と市場の拡大に大きな期待を寄せています。各企業がそれぞれの技術やサービスを通じて、市場ニーズに柔軟に対応し、イノベーションを推進していく姿勢は、今後の経済や産業全体の発展に寄与することでしょう。
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