欠けた … の行方
小学生の時に「オレたちひょうきん族」を見て育った僕にとって明石家さんまは身近なヒーローのような存在で、そのさんまが片岡鶴太郎と一緒に出演した「男女7人夏物語」でシリアスな恋愛ドラマを演じているのを中学生の時に見て大人の世界に憧れ、高校生の時に見た「男女7人秋物語」で鎌田敏夫という人がシナリオを書いているのを知った。
その後しばらく鎌田敏夫を追った。鎌田敏夫は「男女7人…」の何年か前に「金曜日の妻たちへ」の脚本を手掛けた人で、後年には田村正和の「ニューヨーク恋物語」、山口智子の「29歳のクリスマス」などヒット作を連発させる作家だ。小説でも「刑事珍シリーズ」「新・里見八犬伝」などを書いている。どれも面白かったがその中でも「白い帽子の女」が結構面白かったのを覚えている。
ある時書店の本棚で新書の「恋愛映画」を見つけた時はとにかく嬉しかった。今奥付をみると発行は1991年。だから買ったのは20歳か21歳の頃だろう。今からもう30年も前。この頃は今のようにネットで気軽に情報を得られる時代ではなかったので、好きな著者とはいえ、アンテナを高く張っていなくては新作が出る事は分からなかったのだ。
まず、本の装丁にウットリとした。
トレーシングペーパーのような素材のカバーで、本の表紙の外国人の男女が透けて見える。
小ぶりで落ち着いた赤色で
「恋愛映画」
黒字で
「鎌田敏夫」
そして帯。
「幸せなはずだった。あなたを知るまではー」
この惹句!読む前から名作間違いなしでしょ!
大興奮しながら家に帰ってページをめくった。
目次がこうなっていた。
映画の題名が連なっている。
ピンときた。
(映画を1本観てからこの小説を1章づつ読めば絶対面白いに違いない!)
そう読もうと決意し、小樽市内のレンタルビデオショップを原チャリで西へ東へと駆けずり回った。
今でも「旅愁」がなかなか見つからなかった事を覚えている。
…とにもかくにも「プリティウーマン」を観終えてから無事第1章を読み終えた。
期待通りの、期待以上の、ドラマのようなワクワク感。
そしてちょっとした違和感。
全編が会話文で、地の文が一切ない!
それが分かった時、衝撃を受けた。
こうして最後まで映画を1本観ては1章読み進め、ついに読み終える事が出来た。
あの時の、登場人物たちとシンクロしたような、めくるめくような数週間。
あの時の読後感は今でも忘れられない。
今ならNetflixやアマプラなどもあるし、ゲオのアプリで貸出中検索なども出来るから僕のようにすべての映画を観るのもそれほどハードルは高くないだろう。
秋の夜長、ただ1冊小説を読むだけではなく、こうしていつもと違った読書体験をしてみるのはどうだろうか?
そうしてどなたか。
本好きでドラマ好きで映画好きで、「恋愛映画」に興味を抱いてちょっと読んでみようかなと思ったどなたか。
出来る事であれば僕と同じところを読んで、一緒に身もだえてもらえないだろうか。
作中はすべて会話文なので、男女の心中を言葉で表せないシーンは
「…………」
「…………」
と、3点リーダーが4つ並ぶのだが、作中で1ヶ所だけ、その3点リーダーが1個欠けたように
「…………」
「………」
となっているシーンがある。
このシーンを見つけて、欠けた … の行方を想い、どうぞ思う存分身もだえて欲しい。