時々のたのしみ
やっと昼間も過ごしやすい気候になってきた。この夏は本当に暑くて、4か月くらい外出する気が起こらなかった。
出かけたい気分で元気なときは、特にイベントがなければ、ママチャリで猪名川の河原を走る。
堤防の上ではなく水面近くにある、クルマの道路より低い一本道を走る。自転車、ランナー、散歩者しか通らない、たまに土のままになっている道。大半を疾走できるから、ちょっとしたロードムービーを見ているような感覚になる。
広い河原のあるまちが好きだ。道端のさまざまな雑草。かわいらしくてたくましい花たち。河原の葦やすすきは丈が高く、時折、空と道しか見えなくなる。そんな自分だけの世界を砕くのは、轟音と共に真上を通る、伊丹空港を飛び立つジェット機。
あとは、河原でやっている野球チームの歓声、吹奏楽器の練習音、バーベキューのにおい。外国人の集まりらしきものも増えた。かつての大学のキャンパスのような自由な広場。
伊丹のダイヤモンドシティを過ぎ、神津大橋まで行き、私の生まれた尼崎市の手前まで来ると、河原の道は途絶える。
このあたりには「ミルキーハウス」という(ちょっとイメージが合わない名前だが)韓国のかたがやっているお好み焼き屋さんがあって、オモニの皆さんと一緒によく来た。
ここには韓国料理もあって、トッポギやちりとり鍋も食べたし、お好み焼きにもふんだんに唐辛子をかけられておいしかった。しかし、もはやその店も今はない。
ふりかえってみれば、働いた日の2次会でここに来て、さらにカラオケなど3次会にも行っていたから、若い頃は元気だったな…、とつくづく思う。
ここは猪名川の左岸である。学生時代には大和川の左岸に住んでいた。そして、生まれたところは武庫川の左岸である。
高橋幸宏のソロ・アルバムに"Left Bank"(左岸)という歌がある。シングルカットでもなくマイナーだが、少し不可解ででもなぜか心にしみる歌で、「向こう岸は昔住んでいたところ~」と疾走しながら口ずさんでしまう。
出かけたいけど、くたびれているときは、宝塚市山本にある温泉「宝の湯」へ行く。
温泉めぐりは好きで、特に茶褐色のドロドロ系が好きだ。(私はコーヒーもエスプレッソ、なんでも濃すぎるのか…)和歌山市の花山温泉が近所にあればよいが、日帰りでは遠いので、有馬温泉の金泉にそっくりのここへ行く。
最近はどこでもボーリングしたら温泉が出るのだろうが、この地域は阪神大震災でも被害があったところで、何か関係あるのかなとも思う。
もともと娘が幼少時にアトピーだったので、なんとかしたくて温泉めぐりによく連れていった。箕面温泉も、かつてはランチを食べたら最上階のよい方の温泉に入れたので、わざわざ食べに行ったりした。(大江戸温泉に買収されてからは一度も行っていない。東京でもないのに「江戸」「銀座」などといわれると鼻白む思いがする。)
そんな中で、つかしんの「湯の華廊」とここは、有馬にそっくりだと気づき、足繁く通うようになった。
娘のアトピーはその後よくなったのだが、自分の皮膚に異常があった場合でも、ここの温泉に入ると治りが早かったり、重症化しない。不思議なものだ。そういえば、にきび薬の「クレアラシル」は硫黄のにおいがしたが、皮膚病の治療には硫黄成分が関係するのかな…。
そして、「宝の湯」へ行ったときのもう一つのたのしみは、その近所にあるラーメン店「もんつきかかか」で食べることである。(店名は「?」だったが、門脇さんという人なのか…?)
ラーメンは好きで各地で食べ歩きもするのだが、私としてはこの店が100点。なかなか満点というのは付けづらいが、この店はどの点から見てもたいしたものだ。北海道出身のかたで、どうしてここに店があるのかは知らないが、駅から近くでもなく、ネットにたくさん掲載があるわけでもないのに、毎日お客さんが行列している。
店主としては味噌ラーメンが一番自信作のようで、醤油は難しいと話しているのを聞いたことがあるが、どうしてどうして塩もおいしいですよ、大葉などが散らしてあって。さらに野菜入りにすると、麺と同等にあふれるほど載っていて、食べるのに苦労する。
麺はちゃんと麦の香りがするし、チャーシューも違う部位の肉を一枚ずつ入れてある。トッピングのキクラゲは白黒両方が入っていて、これまたすごい量。最近の物価高で、値段はやはり1000円くらいになったが、何か抜けたり量が減った形跡はない。
さらに、私が一番お気に入りな理由がもう一つ。それはお店の雰囲気だ。BGMは常にカーペンターズ(思春期の一番つらいとき、ずっと本屋で立ち読み中に聞いていたのが、カレンの声だったから思い入れが…)。
そして、たまに「子どもが運動会なので」「子どもが熱を出したので」臨時休業、というのがよい。仕事というものはそれでよい。
店内の絵や掲示物もごちゃごちゃせず、すっきりしている。…と書いていると腹が減ってきたから、そろそろご飯にしよう。