男女平等への道しるべ
池田市が、女性のネットワークづくりや起業支援などの連続講座をするとのことで、そのキックオフとして浜田敬子さんのミニ講演があり、それだけを聴きに行ってきた。
ここでも、NHK連続テレビ小説『虎に翼』が冒頭から話題とされた。今年はどこへ行ってもこの話題を聞く。私もチラチラとは垣間見るが、通しできっちりとは観ていない。
これまで私はAERAをちょこちょこ買っていたが、寡聞にして浜田さんという人を知らず、初の女性編集長だったことをこのイベントで知った。『働く女子と罪悪感』という著書もあるらしく、女性の感じる(社会進出に伴う)「罪悪感」は男性にはわからない、としきりに言われた。
例えば、キャラ弁なんか作らなくてよい、とは言いつつも、それをしない母は「罪悪感」をもつものだという。
最近、アイスランドを取材したそうだ。40万人弱の人口で、政府には「平等人権省」があり、国政選挙では投票率が8割に達するという。国会議員のほぼ半数が女性で、世界経済フォーラムのジェンダー・ギャップ指数は(ギャップが少ないという意味で)ここしばらく世界第1位である。
浜田さんのまとめによると、①同一労働同一賃金・育休取得の徹底・クオータ制の3点セット、②女性の連帯と行動力、③10代からの性教育、がポイントだという。どれももっともだと思う。
ひるがえって日本の現状は、女性は非正規労働者が7割、うち年収100万円以下が44%。正規労働者を見ても、年収の最多層は男性が500~700万に対して女性は200~300万。
少子高齢化により、2040年には1100万人の労働者が足らず、介護、教育、公務労働など軒並み不足する見込み(リクルート調べ)。
私は男性だが、それでも初めて子どもをもつときは悩んだ。仕事と子育てが両立できるのか、こんな社会に生まれて子どもは幸せに育つのか。
悩みながらも子どもをもって、以後30年間でちょっぴり世の中変わったとは思う。男性の意識も少しだけ変わった(私の頃は男が家事をするとバカにされた)。
ただ、よく考えてみると、私が子どもをもった頃がちょうど、主婦世帯を共働き世帯の数が上回った時期で、そこから当然、保育の需要も増えるなど大状況の変化があった。
したがって、それに伴うシフトが必要だったという背景を勘案すれば、子育て環境にさほど劇的な改革がなされたとは思えない。女性に「産もうという気になれない」との声が多いことに全く同感である。
浜田さんも言われていたが、昔から不思議なのは、日本の少子化対策がことごとく的外れなことだ。国も都道府県も山のように統計をまとめるが、全く分析がされず、まとめただけで終わり、のものが多い。正しいインプットがされないので、政治家たちはその原因を「女性の社会進出と晩婚化」のせいだと考えているという。「フルタイムでバリバリ働け」と言っておいて、また一方で「子どももつくれ」と言われても、そりゃ無理だと思う。
少子化の原因は「女性の低賃金とすべての長時間労働」であり、平たく言えば「女性が夢を描けない、将来の子育て像を描けない」ことにある。
どこかのトップが午後5時の時点で「明日までにやってください」と指示を出す。「それは無理です」と答えると「いや、明日までまだ24時間あります」と押し切る。
また、どこかの議会では与党も野党もそろって、質問通告の期限を守らない。締切をすぎて夜間・休日でも平気で提出する。それで管理職は勤務時間外に答弁をつくる。
これらは家事・育児のことを考えると、立派なハラスメントである。女性議員の増えた東京都の区議会では、「5時なので帰りましょう」と言うようになったという。遅きに失した感はあるが。
今回、男性の参加者は、予想どおりだが事務局を除けば私一人であった。男性の私が、こうして女性をめぐる課題、男女平等について何か申し述べるのは、正直なところ今でも不安だ。「おまえはどれだけ家事・育児してるのか」と問われれば、穴にでも入りたくなる。
ただ、それでも蛮勇をふるっていうと、私が気になったのは、浜田さんのアイスランド報告の②、女性の連帯と行動力について日本はどうなのか、である。
女性の意識の変化におじん政治家がついていけていないのだが、これに日本の女性が徒党を組んでNOと言っているかというと、「?」が浮かぶ。あいかわらず自民党など保守・復古勢力に女性もたくさん投票している。つまり、NOを言っている勢力に魅力が無いということだ。
フェミニズムには男性の私も恩恵を受けてきたと思っているが、いまの女性の多様な価値観の受け皿として(バッシングの影響を差し引いても)、フェミニズムは機能しているのだろうか。
現実とのズレという意味でややこしいのは、自治体などの「男女共同参画」政策のバックボーンには、80~90年代に(消費社会の中で)隆盛を極めた、オールド・フェミニズムが脈々と流れていることである。もう今やこれだけではとても対応しきれないのに。
ちなみに、この「男女共同参画」という言葉は、「男女平等」という言葉を使わないようにするために考え出され(憲法にも教科書にもあるのにね!とらこさん!)、自民党と産業界が結託して仕組んだ「女性を企業労働者として駆り出し税金を納めさせる」ための論法だ。基本法ができて得意げだったフェミニストを見て、私は当時苦笑いしてしまった。
浜田さんの話を聴いて、日本では女性をとりまく状況がますます逼迫してきたのはわかる。しかし、この呉越同舟ともいえる状態が続く中で、私には次の道しるべが見えてこない。やはり、選挙制度を変えることなのかな…