僕が話に緩急をつける理由
先日、東京で星の噺のライブをしました。
星兄とのツーマンライブです。
おかげさまで無事にたくさんの方々へ星の噺を届けることができました。
ありがとうございました。
イベントのアンケートを見ていると、僕の星空案内について「緩急」という言葉を使って評価してくださる方が非常に多いです。
かなり意識して緩急を盛り込んでいるので、大変うれしい評価です。
今日はなぜ僕が緩急をつけるのか、どのようにして緩急をつけているのかというお話です。
僕が緩急をつける理由
僕は星が好きなので、星空案内をするときは自分の好きなものの話をするということになります。
僕の話を聞いている人が、僕と同じように星が好きかというと、そうではありません。
僕が普段働き、星空案内をする星カフェSPICAは飲食店ですから、お客さんの主たる目的は「飲食」です。もちろんプラネタリウムや星空案内を楽しみに来てくださる方もいますが、肌感覚としては来店者の「星空案内」に対する期待値は低いと感じています。
ゆえに、僕は「星に興味がない人に」「相手の時間をもらって」「自分の好きなものの話を聞いてもらう」わけです。
本来であれば相手にお金払って聞いてもらうくらいのものです。
謙虚……!圧倒的謙虚…!な姿勢が必要です。
その謙虚な姿勢とはどういうものか。
僕が導き出したのは「自分の好きなものの話」を「徹底的に楽しんでもらうコンテンツ」という形に変えてアウトプットすることでした。
つまりおもしろく喋るということね。
さて、緩急の話です。
前提として、相手は星のことに興味はないものとしています。
観望会、夏は暑いし冬は寒い。さっきまでいい雰囲気のお店でいい感じに酔っぱらっていい感じの相手といい感じになってたのに何でわざわざ外で星なんか…
と思っていても仕方がない相手に、星の話をするわけです。
なんとしても退屈させるわけにはいかないっ…!
人との会話で「退屈」がいつ生まれるかというと、「興味が途切れた時」です。興味は最初からない場合もあるし、話が単調でつまらないと最後まで聞いてもらうことができません。特に現代はショート動画など、短いコンテンツが全盛です。長いコンテンツは初見の人に相手の興味を継続させる工夫が必要なのです。
そこで、できるだけ長く退屈せず話を聞いてもらうために、「緩急」を使うわけです。
緩急のつけ方にはいろいろあって
僕が意識しているのは基本は3つ。
声の大きさの緩急
話のスピードの緩急
話題の緩急
です。
声の大きさの緩急
声の大きさの緩急は、小さい声と大きい声の使い分けですね。
僕は星空案内やライブ、講演など人前で喋るときは小さい声で話し始めることが多いです。
聞こえるか聞こえないかぎりぎりのぼそぼそ声です。
これで始めることによって、お客さんは「聴く」モードになることが多いです。仮に自分たちは聞く気がない話でも、小声で会話をしたりしたら、僕の声と重なって「他のお客さんの邪魔になる」というストレスが生まれるため、開演前のざわつき、なんとなく落ち着かない感じを抑えることができます。
この時に喋る内容は、聞こえてない可能性が高いので限りなくどうでもいいことをしゃべってます。
このテクニックは講演などでも使えるのですが、事前に司会者や音響さんに報告しておいてくださいね。司会者から「もうちょっと大きい声でお願いします」と言われたり、音響さん勝手にマイク音量を上げられたことが何度かあります。司会者さんや音響さんが仕事できる人だったから……!
聞くモードになったら大きい、通る声で話し始めるわけですが、話の中でも大きさの強弱をつけます。
聞いてもらいたいところ、重要な話の前でいったんボリュームを小さめに落として耳を引きつけ、ポイントは強めのボリュームで言うとか、フォーマルな話題はしっかり大きめで話し、途中で自分の感想とか、カジュアルな話題をいれる時は普通のボリュームにして「生の声」感を出すとか。
声の大きさの緩急で話にメリハリが出てきます。
話のスピードの緩急
話のスピードの緩急は「ゆっくり喋る」「早く喋る」ですね。
プラネタリウムで眠くなるという話をよく聞きます。
実際僕も5割くらいは寝ちゃったりしてます……贅沢なお昼寝です。
人間は一定のリズムを刻まれると、心が落ち着き、眠くなるようです。
川のせせらぎとか、電車の揺れとかもそうですね。1/fゆらぎってやつですか?
プラネタリウム解説ってゆったり話される方が多いですよね。
それも一定のリズムで。
ゆっくり話すというのはスピーチの基本なので、とても大事な技術です。噛むことも少なくなるし、聞き取りやすくなるうえ、聞き手が「情報を咀嚼する時間」も得られるので「解説」においてはメリットの方が大きいです。
しかしどうしても単調になってしまい、声の強弱もない場合は残念ながら「興味が途切れる」タイミングがやってきて、眠気が……
ソファふかふかだからね。お星さま綺麗だし。プラネタリウムって駅から遠いとこも多いから。いっぱい歩いてきたし、しょうがないね。おやすみ。
おはようございます。
スピードの話でした。あえて早口で喋ることで、話に緩急を作れます。
もっといえば、「情報をひとまとめ」にすることができます。パケットを作るイメージ。
早口で喋るのはたとえば、情報が「並列」の時。
優先度がない情報を並べるときです。
星の話題でいえば、恒星までの距離の遠さを伝えるとき、比較対象として「地球一周の距離」「月までの距離」「太陽までの距離」「土星までの距離」を並べ、そして太陽系外の「恒星」までの距離を出すことで、いかに恒星が遠いところにあるか、ということを伝えます。
この時に比較したいのは「太陽系内の各天体までの距離」と「太陽系外の恒星までの距離」なので、「地球一周」「月まで」「太陽まで」「土星まで」は情報としては並列です。聞き手が情報を咀嚼する時間はあまり必要ありません。
ここは早口で喋って問題ないと考えます。
僕が観望会で使う案内を例にとると、
「天体までの距離、比較対象を作りましょう。わかりやすくkmをお金に代えてみます。そうすると…
地球1周4万円、月まで38万円、太陽まで1憶5千万、土星までは15億、シリウスまでなんと…90兆円!」
太字の部分が早口です。ここで緩急を作ることによって、最後の90兆円が際立ちます。
もっと細かいテクニックを紹介しますが、音数も調整して言葉のリズムを整えています。声に出して読んでみてくださいね。
地球1周4万円、月まで38万円まで言えば「お金」モードで受け取ってもらえるので太陽以降は単位は使わずリズム重視で言葉を選びます。
シリウスまでなんと…の「なんと…」はゆっくり、ボリュームも落とします。「90兆円!」ボリュームを上げてオチをつけます。声の大きさの緩急との合わせ技ですね。
情報をよく聞き、咀嚼してもらうことは「解説」「案内」には必要なのですが、「時間あたりの情報効率」を上げることも大事で、喋る速さで情報量にメリハリをつけることで整理された解説になると思っています。
話題の緩急
興味を継続させる方法はいろいろありますが、話題の緩急も方法のひとつです。
これは緩急のカテゴリにいれるか微妙ですが、大きなくくりでいえば今日の記事に適合すると思うので書きますね。
星空案内やプラネタリウム解説は当然ですが「星の話」をするわけです。
ひとつのテーマにそって、数分から数十分、話を聞いてもらいます。
そこにどうしても「興味の途切れ」「退屈」が生まれる可能性があります。
そこで効果的なのが「余談」「雑談」「閑話」を入れることですが、僕は個人的に「余談は話のアタマに持ってくる」方が効果的だと考えています。
退屈しない話をするためには、「話を聞いてもらうフック」をいかに多く作るかが大切です。僕は蘊蓄を語るのが好きなのでついつい「ちなみに…」とか「余談ですが…」と言いそうになるのですが星空案内ではかなりコントロールして使います。
そもそもひとつの話題を続けていて、それに「追加でまだ話が続く」というのは話し手としてはリスキーです。
先に書いた通り、「興味がない人に」話をしている前提があるからです。
余談を話のアタマに持ってくるというのは、「違和感を与えることで」相手の意識をこちらに向けることを狙います。
繰り返しになりますが星空案内やプラネタリウム解説は「星の話」をするものです。
お客さんが「星の話」が始まるものと思っているところに、まったく関係ない話題や予想していなかった単語がでてくると「この人は何の話をしているんだ?」と興味を引くことができます。
さらに大事なのはその余談・雑談と本題の関連性を探し、結びつけることです。
余談と本題の間に溝があると、そこでも興味は途切れます。
できるだけシームレスに、本題までつなげたい。
余談という船に乗せて、本題という島へ運ぶイメージです。
船に乗っている間に見た景色なんかも本題の中にちりばめると、興味の継続もしやすいですね。伏線という言い方もできます。
ここまでくると緩急においての余談では余談ではないということになります。これは落語の「枕話」に近い考え方です。
話題の転換時にも、それまでとまったく関係ない言葉や話題、キャッチーな単語を使います。
「さて、秋の星座の見つけ方をご案内しました。
ところでここはバーですから色んなお客様が来られます。
色んな話も聞きますね。『うちの子こないだ運動会で一番やってん~』
そらすごいですね、かけっこで一番ですか?って聞いたら『いやかけっこは4番、でも可愛さはうちの子が一番』…わかりやすい親ばかもあったもんで。いつの時代も親ばかというのはおるもんですね、自分とこの子の自慢だけしてる分には可愛いもんですが、よその子の話をしだすと争いの種でございます。
古代エチオピアのお話…」
ここから秋の星座神話に移ります。
カシオペヤの娘自慢がポセイドンの怒りを買い、襲ってきたお化けくじらをペルセウスが退治するお話です。
「子の自慢話」はそれまでの星の話とはまったく関係ありません。普通のエピソードトークで話の転換点、興味のフックを作ります。飽きないように一応のオチも用意しておきます。その後突然「古代エチオピア」と話が飛びますが、これも緩急です。「子の自慢話」という共通点で話を繋げるわけです。
興味を継続させ、「何の話が始まるんだ?」と思ってもらえるための工夫。
それが話題の緩急です。
相手の反応を見ながら話す。
これらの3つの緩急を組み合わせて普段は喋っています。
アドリブを入れることもあるものの、色んなお客さんの前で、何度も何度も繰り返し星の話して、相手を観察し、経験を積んだ結果得た技術というか知見です。
慣れてくると、相手の反応を観察しながら喋るようになります。
話を聞くことに飽きた人がやる挙動、いろいろあります。
その反応を僕は人より気にしちゃうんだなあ。
あんまりいい気分ではないですが、単純に自分の話術が至らなかっただけなので、楽しませてあげられなくてごめんよという気持ちの方が大きいです。
自分が楽しいからやってることで、相手が楽しくないと自分も楽しくないので、やっぱりもっとうまくなりたいなあと思ってしまいます。
実践してる人はたくさんいるし、わざわざ言語化する必要のあったことかはわかりませんが、星カフェのスタッフには知っててもらいたいし、今日は早起きできたのでメモ代わりにまとめておきます。
余談ですが
最後まで読んでくれた人ありがとう。
テキスト中、太字にしてるとこあるよね。
それから口語での文章。
これも緩急を意識してます。
話を聞いてもらうのも、文章を最後まで読んでもらうのも、難しいことだよね。がんばろ~
さらに余談ですが、星までの距離をお金で例える方法は、星カフェを始める前、星のソムリエの講義で「ほしはかせ」が使っているのを聞いて「便利~!!」と思い、すぐに自分も使っていいか聞きにいきました。以来重宝させてもらっているネタです。ほしはかせ、いつもありがとうございます~~