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ほしあそびのねこ

大阪の雑居ビルの屋上に、しろいのとくろいのがいました。
しろいのとくろいのは、「ねこ」と呼ばれる生き物で、夜空を歩き回ることができます。

夜とおさんぽが大好きなふたりは、ぶどうと桃みたいな色のカーテンに、爪を引っ掛けて空にのぼります。
雲の隙間をぴたぴた歩いて、星を眺めて遊びました。

今夜はお皿みたいなお月様が見えました。
夕食のミルクを注ごうとしたけれど、ふたりが着くころにはおうちに帰っていたようで、ミルクは注げませんでした。代わりに水面みたいにちかちかする青い星がぶどう色の空に座っていました。

「これはなに?」
くろいのがしろいのにたずねました。
「あおいほし!」
しろいのが答えます。
「ときどきあおくないよ」
よく見ると青い星はちかちかといろんな色に見えました。なんだこれは。

くろいのはミルクをかけてみました。
ミルクは蒸発しました。
残念ですね。

ふたりは青い星をあとにして、坂道をのぼりました。今度は赤い星を見つけました。お昼寝中のねこみたいに、ふくらんだり、しぼんだりしています。
「これはなに?」
くろいのがしろいのにたずねました。
「なんか、ばくだん」
くろいのがミルクをかけようとしましたが、もったいないのでしろいのが止めました。

ふたりはさっきよりも急な坂をのぼりました。
見下ろすと青い星と赤い星が見えました。
坂のてっぺんには白っぽい星がいて、近くには水たまりみたいな星も並んでいました。
「これはなに?」
くろいのがしろいのにたずねましたが、
しろいのは「わかんない」とこたえました。
すると、白っぽい星と水たまりみたいな星が「わん!」と鳴きました。
「なんで?」とくろいのがたずねますが、しろいのは「わかんない」と答えました。なんででしょうね。

ふたりはさらに坂道をのぼりました。
今度はさくらんぼみたいに並ぶふたつの星を見つけました。
金色と銀色の輝きです。
「うれる?」とくろいのがたずねました。
しろいのは「うれないよ」と答えたあと、「だれもかえないから」と付け加えました。

上り坂でも下り坂でもない空をぴたぴた歩くと、いい感じの広場を見つけたので、ピクニックシートを広げることにしました。
風で飛ばないように四隅に星を乗っけます。
ひとつだけ頼りない気がするけれど、持ってみるとまあまあ重かったです。

街を見下ろすと、雑居ビルの上で望遠鏡を覗いているひとたちがいました。ふたりは特に興味が湧かなかったので、大きな滑り台で遊ぶことにしました。

ピクニックシートを離れて、街が空になるような逆さまになった夜の真ん中を歩ていくと、大きな滑り台のてっぺんに着きました。

しろいのは勢いよく滑り降りました。ぱたぱたするひげの先にいくつもの星が通り過ぎていきます。
キャラメルみたいな星を過ぎる頃、雑居ビルのてっぺんから声が聞こえたので見てみると、望遠鏡を覗いていた人たちが大喜びでこちらを見ていました。
手を合わせてうにゃうにゃ言っている人もいます。
しろいのが夜空を駆け下りると、たまにこういう人たちが現れます。
なんででしょうね。

ミルク色の星を越えると、しろいのはスピードを落として、4つの星に受け止めてもらいました。
振り返ると、くろいのが滑り降りてくるところでしたが、途中で止まり、「アイスクリームがあるよ」と言っています。
2つ重ねのアイスだそうですが、しろいのからはよく見えませんでした。 

ふたりはしばらく遊んでいましたが、気づくと滑り台はずいぶん急な坂になっていました。
ふたりはもうほとんど滑れず、アイスクリームまで行くとすとんと落ちるばかりです。それはそれで楽しかったのすが、やっぱり疲れてしまったのでおうちに帰ることにしました。

わんと鳴く星を探してみましたが、さっきの場所にはもういませんでした。代わりにピクニックシートがぱたぱたと街明かりに照らされていました。

ふたりはぴたぴた歩いてピクニックシートの上にやってきて、ごろんと転がりました。ピクニックシートはゆっくりと雑居ビルの上にふたりを運び、そして地平線に沈みました。

ここからはまだ遊んでない星がたくさん見えました。ふたりはあの星で遊ぶのはまた、あしたか、あさってか、その次の日にしようと話しました。

春の夜風にひげを揺らしながら星を眺めていると、やがて星空ははんぶんになり、そのはんぶんもまたはんぶんになり、さらに経って、まぶたの裏では星がぴょこぴょこ跳ねたりしました。

おやすみなさい。
きょうも良い夜になりますように。

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