映画『流れる』
1956年/製作国:日本/上映時間:117分
原作 幸田文 脚色 田中澄江 井手俊郎
監督 成瀬巳喜男
STORY
敗戦から間もない東京(昭和)。柳橋、大川(隅田川)界隈。
花柳界の末端を担う芸者置屋「蔦の家」には、様々な状況を生きる女性たちの人生があった。
好きになった男性に貢いだ挙句に逃げられて義理の姉に借金を作り、苦しいやり繰りを強いられる芸者置屋「蔦の家」の女将、蔦奴。
芸者の世界には目もくれず、しかし母親の蔦奴を、手に職をつけて助けようとしている、勝代。
戦争にて夫と子供を亡くした過去を持ち、「蔦の家」に住み込みの女中として働くこととなった、梨花(お春)。
夫と上手くいかずに娘の不二子と「蔦の家」に居候する、米子。
借金で首の回らない芸者の、染香。
「蔦の家」人気ナンバー1の若手芸者、なな子。
そして、「蔦の家」の不幸に付け込み甘い汁を吸おうと企む、お浜。
斜陽の芸者界を舞台に女性たちの人生が交錯する、群像劇。
レビュー
男性客の落とす金に依存する芸者という職業と、そのような職業を生業とする女たちの悲哀と狡猾さ、そして気丈さと人間性を、主にひとりの女中の目を通して描いた傑作。
山田五十鈴、田中絹代、杉村春子、高峰秀子、栗島すみ子、岡田茉莉子、中北千枝子、という豪華な演技派女優さんたち七人の競演が素晴らしく、本作を始めとする成瀬作品を10代の頃に、他の巨匠たちの作品『二十四の瞳(木下惠介版)』『乱』『七人の侍』『羅生門』『生きる』『雨月物語』『近松物語』『山椒大夫』『祇園囃子』『祇園の姉妹』『浪華悲歌』『人情紙風船』『河内山宗俊』『丹下作膳餘話 百万両の壺』『東京物語』『幕末太陽傳』等と合わせて鑑賞したことにより、昭和の邦画の素晴らしさを知りました。
※ちなみに本作には『七人の侍』の加東大介、宮口精二も脇役にて出演しております
個人的に日本の監督で最も好きなのは山中貞雄と成瀬巳喜男なのですけれども、本作の完成度は成瀬作品の中でも間違いなく最上位に位置します。
俳優陣の演技だけではなく美術も素晴らしい作品ですから、未見の方がいらっしゃいましたら、是非。
成瀬作品は成瀬組(達人たち)の一流の仕事により無駄の無い端正な佇まいをしており、観れば誰にでもわかるため(それでいて深い余韻を残す傑作が目白押し)、余りレビューを記す気になりません。
「粋」な作りの成瀬作品に、長文は無粋かなと……
また成瀬作品は年月を経る毎に、その評価を上げ続けてゆくと思います。
ただ余りに巧過ぎる仕事というものは、一見簡素でシンプルなものとして映るため、世の常としてその凄さや素晴らしさを評価されにくいものです。
ゆえに今後、大好きな成瀬作品を少しでも世に広めるべく、個人的なおすすめ作の記事をちょこちょこ上げてゆきます。
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