書籍『アニメと戦争』
藤津亮太 (著)
出版社 日本評論社
発売日 2021/3/2
単行本 280ページ
目次
内容紹介
レビュー
日本のアニメは戦争をどのように描いてきたのかを探ってゆく一冊。
戦中戦後に制作された戦争を扱った複数の人気アニメ(TV・映画)を、歴史学研究者「成田龍一」により大枠で設定された「戦争の語られ方の変還を示す4つの時代区分(「状況」の時代、「体験」の時代、「証言」の時代、「記憶」の時代)」を念頭に置きつつ(第一の「地図」としつつ)、その他2つの地図も追加し、それら「3つの地図を組み合わせながら」論を展開してゆきます。
アニメ作品は「100%意図された画と音」により構成されていますから、実写よりも制作した側の脳内風景を知覚し易い傾向があります。ゆえに人々の意識の中にて「戦争」の捉え方が、どのような変還を辿って行ったのかを知るための、有用な手掛かりとなり得るというわけです。
終戦直後は戦争を実際に経験した人しかいませんでしたけれども、時代を経るに従い、戦争の話を家族から聴くことすらなく育つ世代(私もその世代に該当します)が世の中の大半を占めるようになってゆきます。そうすると同じ題材を扱ったアニメの内容も当然のように変化してゆくわけです。
そのことをまず第1章の『ゲゲゲの鬼太郎』のエピソード「妖花」を題材に(「定点」として)検証してゆくのですけれども、「妖花」は50年の間に『ゲゲゲの鬼太郎』のシリーズと数を合わせるように6回も製作されているらしく、その内容の変化には非常に興味深いものがあります。
そのあたりは記すと1章全てを引用する事態となってしまいそうなので控えますけれども、とにかくこの一章だけでも読む価値はあるのではないかと思うわけです。
その後も『桃太郎の海鷲』『桃太郎の神兵』『巨人の星』『サイボーグ009』『遊星仮面』『宇宙戦艦ヤマト』『ガンダム』『マクロス』『火垂るの墓』『紅の豚』『パトレイバー2』『風立ちぬ』『この世界の片隅に』等を中心に様々なアニメの断片から戦争についての描写が抽出され、語られてゆきます。
私は本書に登場するアニメをほぼ鑑賞していないため、その内容の3割も理解できていないのではないかと感じますけれども、バトル系戦争アニメに詳しい方でしたらより楽しめる上に、本書の狙いに対する理解も深められるのではないかと感じました。
戦争後の「戦争」に関する研究として、切り口の新鮮な一冊です。