映画『ヘロイン×ヒロイン』
2017年/製作国:アメリカ/上映時間:39分
原題 Heroin(e)
監督 エレイン・マクミリオン・シェルドン
※ NETFLIX オリジナル
予告編(英語)
STORY
アメリカ。ウェストバージニア州。ハンティントン。
ヘロインによる薬物汚染と戦う3人の女性の活躍を追う。
レビュー
ヘロインという単語とヒロインという単語の違いは、「e」の文字が有るか無いか。
巧いタイトルと思います。
第90回アカデミー賞短編ドキュメンタリー映画賞にノミネートされた本作は、「(麻薬の)過剰摂取の中心地」の異名をとるアメリカはウェストバージニア州ハンティントンにて、それぞれの立場(持ち場)で薬物問題と向き合う3人の女性(3人のヒロイン)の日々を追うドキュメンタリー。
39分の短編ではありますけれども、とても見応えがありました。
ハティントンの麻薬の過剰摂取による死亡率は全国平均の10倍。肉体労働者が多く、ケガをきっかけに処方薬(鎮痛剤「オピオイド」)の依存症となり、医師の処方箋が必要なオピオイド薬が手に入らなくなると強力な離脱症状の苦しみに耐えられず、ヘロインの使用へと移行してしまうという流れが殆どで、現在では既にそのような流れは薬品会社の策略であったことが広く知られております。
ちなみに人口9万6千人のキャンベル郡の年間医療費はなんと約1億ドル(本日2024/06/30のレートで160億8751万6088円)です
主人公のヒロイン3人のプロフィールは以下の通り。
・「看護師」兼、「消防士」:ジャン・レイダー
ハンティントン消防署副所長であり、作品の撮影中に所長へと昇進します。
・判事:パトリシア・ケラー
キャンベル郡、薬物専門裁判所判事
・慈善活動家:ネシャ・フリーマン
娼婦たちを助ける等の活動を、教会や公的機関と連携して行っている
個人的には、ジャン・レイダーの言動や行動に最も勇気をもらいました。
彼女の視野は広く、全体と部分を同時に見ることが出来、それゆえに問題のポイントを的確に把握することも可能となり、対応策&解決策を模索することも出来ます。加えて最悪な状況に心を痛めることはあっても、弱々しい発言や行動は控え、常に前向きに部下たちに指示を出すことも出来るため、まさにリーダーとしての資質を備えた人物です。
最も印象に残ったジャン・レイダーの発言は何らかの方針会議にて、ジャン・レイダーがナロキソンの有用性を説明した直後になされた質問に対する返答です。
オピオイド拮抗薬のナロキソンの使用に関しする、ある男性からの
「ナロキソンのばらまきは、麻薬常習者を喜ばせるだけとの意見もあります。その声にどう対応を?」
※要するに「麻薬中毒者のオーバードーズは自己責任だから死んでも放っておけば良いのでは?」というようなことを遠回しに示唆している
という否定的な質問に対し、ジャン・レイダーは毅然とした態度で言い放ちます。
「私はナロキソンが常習者を喜ばせるとは思いません。むしろ不評です。ナロキソンは常習者に離脱症状を引き起こして苦しめますから。また、彼らは死んでしまえばリハビリさえも不可能です。リハビリを受けてくれるなら、私は50回だろうと彼らを助けます。またリハビリを受けた人たちは、やがては市民として税金を納めてくれます。薬物依存に苦しむ人々を(自分の過去の経験を生かして)沢山助けてもくれるでしょう。私はそれを信じています。(男性が言うような)悲観的な意見に負けてはいけません。今注目すべきなのは私たち皆がこれまでに積み上げてきた成果なのです」
と。
そのような見解を、日常生活の中にて明確に語ることの出来る女性は、私は間違いなくヒロインであると思います。
本作では語られておりませんけれども、題材となった麻薬蔓延の経緯に関し知りたい方には、以下の書籍がおすすめです。
何故オピオイドのような薬品(の体をした強力な麻薬)が蔓延しまったのかと言えば、アメリカのFDAや法律関係者、政治家達の多くが企業と癒着しており、政治等がまともに機能していないからです。
以下は医療器具に関するドキュメンタリーの記事ですけれども、医薬品に関しても同じような状況を呈しています。