映画『衝動 世界で唯一のダンサオーラ』
2017年/製作国:フランス、スペイン/上映時間:85分 ドキュメンタリー作品
原題 Impulso
監督 エミリオ・ベルモンテ
予告編(日本版)
予告編(海外版)
STORY
レビュー
物心ついて間もない頃、私はスペインにてフラメンコに初遭遇する……はずだった……。しかし残念なことに遭遇したそれは「商業的な」見世物でしかなく、お金の匂いしかしない「まがい物」であった。
子どもながらに「私が楽しみにしていたのはこんなんじゃない!」と怒りが湧き、親に「つまんない、帰りたい」と不平を言って困らせたのを覚えている。しかもそんな時に限って最前列の席があてがわれ、その悔しさは頂点に達した。救いはその見世物(あれは断じてフラメンコではない)がやたら豪華な夕食付きだったことで、私は食事に集中することにより何とかその不毛な時間をやり過ごした。
本作に観ることの出来るフラメンコは、あの夜わたしが妄想し、強く欲しながらも出会うことの叶わなかった、本物の、魂を纏ったフラメンコである。
ロシオ・モリーナのチームは素晴らしい。
ギター、歌、手拍子、踊り手の刻む足音と舞の息が、ピタリと合っている。
というか、たゆまぬコミュニケーションとすり合わせの繰り返しにより、ピタリと合うように、日々磨きをかけている。
本番では長時間、常に緊張状態(集中状態)を維持し、息を合わせながらもそれぞれが独自のリズムを際立たせつつ、且つ互いに寄り添うように、観客の感情を掻き立てるリズムを刻み続け(生み出し続け)、構成(モリ―ナのチームは「即興」含む)の正確な実行とその際に生み出すハーモニーにより、観客をこれまで知覚し得なかった未知の世界へと誘う。また踊り手はリズムだけでなく、舞による視覚的な芸術表現までをも生み出す。
ロシオ・モリーナのそのような発言を観ながら、私はアフリカのバカ族の人々(女性達)の歌唱を思い出した。その歌唱はとても複雑な構成を持っていたため驚いたのだが、その大部分が即興でなされているという事実は、さらに私を驚かせた。それらの歌唱が即興でなされたものであるようには、私の耳には到底聴こえなかったからだ。それほどに彼女たちの奏でる歌声は複雑で、その息はピタリと合っていた。
女性の身体を持つフラメンコの名手達は、どちらかと言うとズングリムックリしていて、筋骨隆々、それでいてバネと持久力のある、闘牛の牛のような雰囲気を持つ人が多い。
フラメンコを舞い、奏でるには、馬力(牛力)と安定感が重要なのかもしれない。
また、名手たちの眼光はいずれも鋭い。繊細でいながら、その気性は荒いのだ。
原題の『Impulso(インプルソ)』とは『衝動』のこと。
ロシオ・モリーナは今、文字通りの全盛期で、日々未知の領域に果敢な挑戦を続けている。
一度は生で見ることをお勧めしたい踊り手の一人だ。
ちなみに本レビューではロシオ・モリーナの語る言葉の紹介を、最低限に抑えた。
残りの至言には、是非本編にて遭遇していただきたい。
その他
DVD「デラックス版」の特典DVDには、『ロシオ・モリーナLIVE—カイーダ・デル・シエロ』が丸ごと、本編よりも長い97分にて収録されています。
ゆえに個人的には「デラックス版」推しです。
公式サイト
オデッサ・エンタテイメント公式サイト
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