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映画『衝動 世界で唯一のダンサオーラ』

2017年/製作国:フランス、スペイン/上映時間:85分 ドキュメンタリー作品
原題
 Impulso
監督 エミリオ・ベルモンテ





予告編(日本版)


予告編(海外版)


STORY

 進化し続ける唯一無二の天才が生み出す、フラメンコの伝統と舞台芸術の革新が融合した驚異のステージ。
 ダンスに魅せられ、ダンスを追及し続けるロシオ・モリーナの創作活動の舞台裏に迫る!

 
 スペイン芸術界最高の栄誉「スペイン国家舞踊賞」を26歳の若さで受賞。2018年にイギリスの舞台芸術の最高賞「ローレンス・オリヴィエ賞」ノミネート。伝統的なフラメンコをベースにしながら、革新的なスタイルでフラメンコの世界を押し広げ、世界的な評価を確立したロシオは、他の舞台芸術や現代アートの世界からも熱い視線を送られている。
 3歳でダンスに目覚め、恵まれているとはいえない体格をものともせず頂点に上り詰めた彼女は、その天才的なリズム感、驚異的な身体能力、天性の芸術的感性で異次元のステージを繰り広げる。
 本作は、彼女のステージの創作現場を追ったドキュメンタリー。パリのエッフェル塔に臨むシャイヨー国立舞踊劇場での新作公演「カイーダ・デル・シエロ」の初演までの道のりに密着した。仲間たちとの創作、練習、そして圧巻のステージ本番。フラメンコ界の重鎮、ラ・チャナやフェルナンド・デ・ラ・モレーナたちとの心震えるセッション。そして、家族や本人のインタビューを通して、彼女の心の内側にも迫る。
 世界中の人々を魅了してやまない彼女のパフォーマンスやステージはどのように出来上がっていくのか。フラメンコの枠を超えた注目を浴びながら、フラメンコの魂を持ち続ける彼女が追求するステージとは —

公式サイトより


レビュー

 物心ついて間もない頃、私はスペインにてフラメンコに初遭遇する……はずだった……。しかし残念なことに遭遇したそれは「商業的な」見世物でしかなく、おカネの匂いしかしない「まがい物」であった。
 子どもながらに「私が楽しみにしていたのはこんなんじゃない!」と怒りが湧き、親に「つまんない、帰りたい」と不平を言って困らせたのを覚えている。しかもそんな時に限って最前列の席があてがわれ、その悔しさは頂点に達した。救いはその見世物(あれは断じてフラメンコではない)がやたら豪華な夕食付きだったことで、私は食事に集中することにより何とかその不毛な時間をやり過ごした。

 本作に観ることの出来るフラメンコは、あの夜わたしが妄想し、強く欲しながらも出会うことの叶わなかった、本物の、魂をまとったフラメンコである。

 
 ロシオ・モリーナのチームは素晴らしい。
 ギター、歌、手拍子、踊り手の刻む足音リズムと舞の息が、ピタリと合っている。
 というか、たゆまぬコミュニケーションとすり合わせの繰り返しにより、ピタリと合うように、日々磨きをかけている。
 本番では長時間、常に緊張状態(集中状態)を維持し、息を合わせながらもそれぞれが独自のリズムを際立たせつつ、且つ互いに寄り添うように、観客の感情を掻き立てるリズムを刻み続け(生み出し続け)、構成(モリ―ナのチームは「即興」含む)の正確な実行とその際に生み出すハーモニーにより、観客をこれまで知覚し得なかった未知の世界へといざなう。また踊り手はリズムだけでなく、舞による視覚的な芸術表現までをも生み出す。
 

 フラメンコはコンパス。そのリズムそのもの。私たちは楽器だからコンパスを外せない。唯一できるのは、その中で自由に間を取ったりブレーキをかけたり操作すること。パン生地みたいにこねたり寝かしたりする。
 とても楽しいの。

 今 取り組んでるのは、フラメンコと即興すること。子供みたいに楽しんでる。
 開けてはならぬ箱、誰も開けたくない、気後れして開けられない箱を開けるみたい。
 実際にはフラメンコにならないかもしれないけれど。
 フラメンコでこの試みをするのは初めてのことだから。

 ロシオ・モリーナのそのような発言を観ながら、私はアフリカのバカ族の人々(女性達)の歌唱を思い出した。その歌唱はとても複雑な構成を持っていたため驚いたのだが、その大部分が即興でなされているという事実は、さらに私を驚かせた。それらの歌唱が即興でなされたものであるようには、私の耳には到底聴こえなかったからだ。それほどに彼女たちの奏でる歌声は複雑で、その息はピタリと合っていた。

 私にとってインプルソとは、体に起きる反応。考えるより先に体が反応する。
 それはある瞬間に起きる、その時の絶対的な真実。

 日記のようなもので、その瞬間事の出来事を集めて人生の出来事や芸術的変化をただ物語るだけ

 即興は毎日違う形で現れる。直接書き留めておくものもある。
 直感や感覚に従っていたら、考えることも準備もしていなかったたくさんのことが現れる。
 そして直感に任せていると、無意識のうちに、終わる頃にはやりたかったことができている。
 踊りながら何かを発見することが好き。
 新鮮さや閃きはたった一度だけ。
 何か新しいものを見つけたその時にだけ感じられるの。



 

 女性の身体を持つフラメンコの名手達は、どちらかと言うとズングリムックリしていて、筋骨隆々、それでいてバネと持久力のある、闘牛の牛のような雰囲気を持つ人が多い。
 フラメンコを舞い、奏でるには、馬力(牛力)と安定感が重要なのかもしれない。
 また、名手たちの眼光はいずれも鋭い。繊細でいながら、その気性は荒いのだ。

 原題の『Impulso(インプルソ)』とは『衝動』のこと。

 ロシオ・モリーナは今、文字通りの全盛期で、日々未知の領域に果敢な挑戦を続けている。
 一度は生で見ることをお勧めしたい踊り手の一人だ。

 ちなみに本レビューではロシオ・モリーナの語る言葉の紹介を、最低限に抑えた。
 残りの至言には、是非本編にて遭遇していただきたい。



その他

 DVD「デラックス版」の特典DVDには、『ロシオ・モリーナLIVE—カイーダ・デル・シエロ』が丸ごと、本編よりも長い97分にて収録されています。
 ゆえに個人的には「デラックス版」推しです。

 『衝動―世界で唯一のダンサオーラ』でその舞台裏を追った、パリ・シャイヨー国立舞踊劇場での「カイーダ・デル・シエロ」のライブ映像。ロシオ・モリーナの大迫力のステージを収録!天から落ちてきた女性の旅がテーマの本作品で、ロシオは第19回英国批評家協会賞(ナショナル・ダンス・アワード)にて「OUTSTANDING FEMALE MODERN PERFORMANCE」賞を受賞。
監督:エミリオ・ベルモンテ
出演:ロシオ・モリーナ、エドゥアルド・トラシエラ、ホセ・アンヘル・カルモナ、オルーコ、パブロ・マルティン・ジョーンズ
2016/97分/スペイン語(日本語字幕無し)
※通常版には付属しておりません

オデッサ・エンタテイメント 公式サイトより


公式サイト


オデッサ・エンタテイメント公式サイト


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