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書籍『ダーク・マネー 巧妙に洗脳される米国民』

ジェイン・メイヤー (著)  伏見 威蕃 (翻訳)
出版社 東洋経済新報社
発売日 2017/1/27
単行本 664ページ




目次

序章 投資家たち

第1部 フィランソロピーを兵器として使う思想の戦い:1970─2008年
第1章 過激派:コーク一族の歴史 
第2章 隠された手:リチャード・メロン・スケイフ 
第3章 海岸堡:ジョン・オリンとブラッドレー兄弟
第4章 コーク・メソッド:自由市場騒乱 
第5章 コクトパス:自由市場マシーン

第2部 秘密の後援者:2009─2010年 秘密活動
第6章 敵地で戦う歩兵 
第7章 ティータイム 
第8章 化石燃料
第9章 金がものをいう:シチズンズ・ユナイテッドへの長い道のり
第10章 敵を叩きのめす:ダーク・マネーの中間選挙デビュー、2010年

第3部 政治の私物化:全面戦争、2011─2014年
第11章 戦利品:議会からの略奪
第12章 すべての戦いの母なる戦争:2012年の敗北
第13章 州:地歩固め 
第14章 新コークの売り込み:改善された戦闘計画


内容紹介

全米を揺るがせた衝撃のベストセラー、緊急刊行!
各紙絶賛! 『ワシントン・ポスト』注目すべきノンフィクション2016、『ニューヨーク・タイムズ』ベストブック2016

アメリカでいま何が起こっているのか?

トランプを勝利させた「反リベラル」の風は、ある私的ネットワークによってつくられたものだった!!
メディア、大学、シンクタンク、慈善団体を操作!
反抗するものには尾行し、盗聴し、脅迫し、でっちあげる。

これはもはや思想戦争だ!

カネで政治を動かす億万長者の正体を、実力派ジャーナリストが徹底取材により明らかにした渾身の調査報道


レビュー

 時間が出来次第、追記予定。

 端的に(というか乱暴に)記すと、【少し前の共和党側の腐敗の様子が細かい「カネの流れ」と共に明確に記されている良書】となります。
 ただし「民主党側の腐敗には一切触れず」という、なにやら思惑を感じる、視点が一方に偏った一冊でもあります。

 しかしながら本書を読めばダークマネー(汚い「カネの流れ」)の基礎の一部を深く学ぶことが出来るため、様々な裏に「感づく」ための力は確実に付きます。

 おすすめです。

 ※ちなみに(落選した)ヒラリーも、オバマも、バイデンも、(落選した)ハリスも、そして「民主党」自体がバッチリしっかり腐敗しており、裏を牛耳るダークマネーの力の凄まじさを思い知ります
 

その他

 アメリカの超富裕層がオバマ政権を切り崩した手法とは?
 佐藤優が『ダーク・マネー 巧妙に洗脳される米国民』を読む

 
 資本主義社会においては、権力と金の間に代替関係があるという現実をリアルに描いた作品だ。08年の米国大統領選挙で格差是正の方針を打ち出したオバマ大統領が当選したことに一部の超富裕層が強い危機感を覚えた。そして謀略的な手法によって、オバマ政権の権力基盤を切り崩すことにした。中心的な役割を果たすのがチャールズとデイヴィッドのコーク兄弟だ。コーク一族の歴史が詳しく追跡されているが、他人を搾取し、収奪しても良心の痛みをまったく感じず、儲かるならばスターリンやヒトラーにも平気ですり寄る俗物一族によるピカレスク(悪党)小説を読んでいるようだ。
 
 コーク兄弟は、政治性がないように偽装した慈善財団を立ち上げ、そこからの資金援助を通じて、徐々に影響力を拡大していった。その標的として特に重視されたのがエリートを多く輩出する大学だ。「チャールズ・G・コーク財団」をきりもりしていたジョージ・ピアソンの「海岸堡」戦略が興味深い。〈(ピアソンは)保守派の細胞、つまり「海岸堡」を、「もっとも影響力の大きい学校で確立し、それを目的遂行のための最大の手段にする」と説明している。この手順は、直截(ちょくせつ)ではないやり方で巧妙に進めなければならないし、欺瞞も必要になるかもしれない。/(中略)ポストを確保したり、教職員の任命に口を出したりすれば、「激しい反論」を引き起こすから、そういうことは避けなければならない。それよりも、保守派のドナーは、似た考え方の教職員を見つけて、外部から資金援助し、影響力が大きくなるように仕向けるほうがいい、とピアソンは提案した。〉この謀略は着実に進められ、米国の大学に競争原理と規制緩和を礼賛し、自己責任を強調する勢力が確固たる基盤を持つようになる。さらにコーク兄弟ら大富豪は、自己の利益を代弁する勢力に共和党を転換していく。
 
 こういった動きにオバマ大統領が気付くのがあまりにも遅かった。〈2012年初頭、ルーズヴェルト会議室での会合で、選挙参謀のジム・メッシーナが、悪い報せを伝え、オバマを驚愕させた。反オバマ活動に使われる共和党外部の支出が、6億6000万ドルにのぼると予想されていた。/「たしかなのか?」オバマはきいた。/「かなり確実です」メッシーナが答えた。/オバマは(中略)「これよりもひどく公共の利益を破壊した物事を、私は思いつかない」と述べていた。〉
 
 米国社会はこの暗黒から抜け出せないのではないかと不安になる。

評者:佐藤 優 週刊文春 2017.04.06号掲載  


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