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書籍『企業犯罪 アメリカ製薬会社における企業犯罪のケーススタディ』

J. ブレイスウエイト《John Braithwaite》 (著) 井上 真理子 (翻訳) 牟田和恵(翻訳)
出版社 三一書房‏
発売日 1992/5/1
単行本 566ページ
定価 4600円



※この装丁のデザイン、カッコいい……

目次

まえがき
第1章 序論 一産業における企業犯罪のケース・スタディ

第2章 贈賄
 
企業幹部と贈賄について語る
 ワイロの金額
 メルク
 アメリカン・ホーム・プロダクツ
 ワーナー・ランバート
 ファイザー
 アップジョン
 スクイップ
 ブリストル・マイヤーズ
 シェーリング・プラウ
 上位二十社にランクされていない会社
 アメリカン・ホスピタル・サプライ
 ローラー・アームヘン
 シンテックス
 メドトロニック
 SEC開示文書および関連書類についてのまとめ
 ワイロはどのようにして手渡されるのか
 メキシコにおけるワイロ撲滅十字軍
 アメリカにおけるワイロ撲滅十字軍
 国連のワイロ撲滅十字軍
 
第3章 薬の安全性テスト―過失から詐欺まで
 いくつかのケース・スタディ
 モートン・ミンツの先駆的な仕事
 MER/29
 サリドマイド
 G・D・サール
 バイオメトリック・テスト会社とインダストリアル・バイオテスト・ラボラトリーズ
 安全性テストに関する違反の調査
 被験者の権利
 ケーススタディの解釈
 欺瞞の根源
 企業の巧妙さの規制に伴う問題
 自己規制を有効なものとするには
 財政的依存と科学的独立
 抑止と更生

第4章 危険な製造行程
Ⅰ 
いくつかのケーススタディ
 
アルコール溶解サルファニルアミドの悲劇
 アボット事件
 エヴァンス・メディカル
 コーディス訴訟
 四番目のケーススタディ:匿名の多国籍企業
 危険な生産活動の労働者に与える影響
Ⅱ ケーススタディの解釈
 法の限界
 組織内における品質管理部門の位置
 品質管理におけるプロフェッショナリズムの確率にむけて
 過剰規制の社会的コスト
 GMP遵守の度合の国による違い
 多国籍企業は悪質か?

第5章 製薬企業の猛烈な売込み
 
小史
 過剰医療社会
 売り込みのリスト
 売り込み費用はもとがとれる
 医学雑誌広告
 外交販売員
 医者における利害葛藤
 効果的な規制を求めて
 自己規制の位置づけ
 広告と情報との置きかえ
 マス・メディアにおける薬の広告の禁止
 一般の人々にもっと情報を

第6章 製薬企業と第三世界
 
低医療社会
 第三世界での宣伝
 シルヴァーマンに対する製薬企業の反応
 ダンピング(不当輸出)
 ダンピングに対するアメリカの姿勢
 実験台としての第三世界
 製薬企業での第三世界の攻勢
 第三世界で効果的な規制を行うために

第7章 取引上の犯罪
 
マッケンソン帝国の形成
 会社の潰し合い
 レブコ社のディケイド詐欺
 会社間移転価格
 結論

第8章 企業犯罪規制のための戦略
 
議論の概略
 規制のコスト
 規制当局ー産業側のとりこか?
 公平の問題
 刑法の限界
 法典化のデメリット
 個人責任対企業責任
 自由刑および死刑
 罰金
 株式による罰金
 公開による制裁
 押収
 介入主義的制裁
 政府の権力乱用に対する伝統的な保護手段と企業
 内部告発を奨励する法
 製造物責任
 集団代表訴訟
 自己規制を有効にするために
 取締役会の役割
 社会主義
 企業犯罪における国際性の増大
 結論:重要なのは力である

補追、企業重役に行ったインタビューについて
 
インタビュー申し込みと接触
 インタビューの実際
 註
 あとがき
 文献

内容紹介

 本書はアメリカ製薬会社の企業犯罪を事例に、贈賄・詐欺・危険な生産活動のメカニズムを社会学的に明らかにする。


レビュー

 「原書」の出版が40年前とは思えない程に充実した内容で、且つ面白く、そして何よりも学びとなりました。
 名著と思います。
 
 まずは(手打ちした)上記「目次」を御覧いただき、第2章「贈賄ぞうわい」の欄に「ファイザー」の名前があるのを、ご確認いただけましたらと思います。
 40年前に出版された「企業犯罪」に関する書籍に既に名前が載っている企業であるという事実を知っておくことは、個人的にはとても×2大切な事のように感じます。

 次に、本書「はじめに」より引用し、上記「内容紹介」の補足といたします。

 本書は一つの産業における企業犯罪のケース・スタディである。すなわち一つの産業内で生じた多種多様な企業犯罪を描き出そうという試みなのである。1979年に私はカリフォルニア大学アーヴァイン校で企業犯罪についての講義を行った。その時気付いたことは、学生達は企業犯罪についてぼんやりとしかわかっておらず、強大な力を持つ者によってなされた理解を越える悪ぐらいにしか考えていないということだった。
 だから具体的な例を挙げて説明せよと言われるとはたと当惑してしまうのである。したがって本書の目的の一部は、製薬産業における企業犯罪の多くの事例を描き出すことによってこのギャップを埋めようということである。これらの事例は、企業犯罪の深層をうがち、その深刻さを教えてくれる。
 本書はまた事実の描出よりも重要なこととして分析をその目的としている。
 製薬産業における経験をもとにして、企業犯罪規制のメカニズムのさまざまなタイプにつき、その有効性を探ってみようというのである。ほとんどの章では冒頭に企業犯罪のいくつかの事例が描かれている。続いて企業幹部等に対してなされたインタビューから得た情報を用いての解釈がなされ、企業犯罪を規制していくための政策の今後の改善に、このケース・スタディはどのように役立ち得るのかが考えられる。
 私に情報を提供してくれた人々の中には、私の執筆方針を快く思わない向きもいるだろう。製薬産業は人類のために多くの貢献を行ってきたのに私がそれを無視し、悪い面ばかりに関心を注いだ一方的な説明だと考えるだろう。先進諸国における重大死因のうちから、結核と胃腸炎とジフテリアを除去した功績は結局のところ製薬産業に帰せられるのだと彼らは言うだろう。しかし残念ながら、人間の暗黒面を暴き出すのが犯罪学者の仕事なのである。もしも犯罪学者が強盗や殺人の研究を行っても、誰も「バランスのとれた」説明をせよなどとは言わないだろう。すなわち多くの強盗は良き家庭人であり、子どもを愛し、キリスト教的しつけを行い、また近所の人が困っていたら寛大にも救いの手をさしのべただろう等の事を正当に評価せよなどとは言わないだろう。にもかかわらず企業犯罪を研究する時だけこのような「バランスのとれた」公平さが要求されるのである。

(以下は「謝辞」中心のため略)

本書「まえがき」より抜粋

 
 本書は著者による優れた分析に満ちており、引用を用いた鋭い指摘も豊富であることから、「論理的思考」を「強化する」上で非常に有益な一冊となっております。
 ゆえに読む人によっては、実り多き一冊となるかもしれません。
 以下に個人的な実りのほんの一部を引用し、レビューを終えます。

 製薬会社の企業犯罪の大半は、犯罪者の邪悪なパーソナリティーによっては説明できない。邪悪な行いの源泉を邪悪な人々の内部に求めようとする個人主義文化の傾向そのものを疑問に付すべきなのである。その代わりに「普通の人間に普通でないことをやらせる諸要因に関心を持つ」べきである

 (中略) バンデューラは「非人格による支配」の心理学的基礎を次のように説明している。
 自己の攻撃性発動に対しての罪悪感を柔らげる一つの常套手段は集団的意思決定に依拠するということである。そうすれば結果的になされたことに対して誰一人責任を感じないですむ。実際、社会的諸組織は、他者に有害な影響を与えるような決定に関して責任をアイマイにするようなメカニズムの洗練と工夫に相当たけている。分業、意思決定の分化、集団行動を通じて、個人は責任を感じることなくまた自己軽蔑を感じることなしに残虐行為や殺戮さつりくに貢献することが可能となる

 (中略)
 患者たちには注射の中にガン細胞が混入されていることは知らされず、それどころか免疫あるいは生体反応に関する皮膚テストであると説明された。研究者の立てた仮説は、塊が発生しやがてしだいに消滅していって患者にはなんの害も与えないというものであった。それゆえ、彼らは患者に要らぬ心配は(と彼らは考えた)をさせないでおくことに決めた。
 サザムは、この実験手続には「なんの危険もない」と宣言した。しかし注意せねばならないのは別の機会に、ガン細胞注入実験の被験者になることについては自分自身なら抵抗を感じるとサザムが語っていたのを、引用してある本があることである。彼は自分がなぜそう思うかについて「実験を危険と見なしているわけではないが、実験を直視すれば熟練したガン研究者というのはほとんどいないといっていいので、ちょっとした危険でさえもこれを引き受けるのは愚かに思える」と説明している

 法が形式的で錯雑さくざつしたものになればなる程、それは企業のように形式的で合理的な官僚制組織に有利に働くだろう。それゆえ、「法」と「正義」とはある意味で基本的に両立しないともいえる


   

 





 
 

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