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書籍『ガザとは何か~パレスチナを知るための緊急講義』②

岡 真理 (著)
出版社 大和書房‏
発売日 2023/12/22
単行本 166ページ



目次

はじめに
パレスチナ問題 関連年表
地図(パレスチナ全図、ガザ地区)

■第1部 ガザとは何か
毎年行われるイスラエルのヘイトデモ/四つの要点/イスラエルによるジェノサイド/封鎖下のガザに繰り返される攻撃/発信することすらできない/イスラエルの情報戦/ガザとは何か/イスラエルはどう建国されたか/シオニズムの誕生/シオニズムは人気がなかった/植民地主義としてのシオニズム/パレスチナの分割案/パレスチナを襲った民族浄化ー「ナクバ(大災厄)」/イスラエル国内での動き/ガザはどれほど人口過密か/ハマースの誕生/オスロ合意からの七年間/民主的選挙で勝利したハマース/抵抗権の行使としての攻撃/「封鎖」とはどういうことか/ガザで起きていること/生きながらの死/帰還の大行進/ガザで増加する自殺/「国際法を適用してくれるだけでいい」/ヨルダン川西岸地区出身・ジョマーナさんのスピーチ/ガザ中部出身・アンハールさんのスピーチ

■第2部 ガザ、人間の恥としての
今、目の前で起きている/何度も繰り返されてきた/忘却の集積の果てに/不均衡な攻撃/平和的デモへの攻撃/恥知らずの忘却/巨大な実験場/ガザの動物園/世界は何もしない/言葉とヒューマニティ/「憎しみの連鎖」で語ってはいけない/西岸で起きていること/十月七日の攻撃が意味するもの/明らかになってきた事実/問うべきは「イスラエルとは何か」/シオニズムとパレスチナ分割案/イスラエルのアパルトヘイト/人道問題ではなく、政治的問題

■質疑応答
ガザやパレスチナに対して、今私たちができることは?/無関心な人にはどう働きかければいい?/専門家でもないのにパレスチナ問題を語ってもいいのか/アメリカはなぜイスラエルを支援し続けるのか?/BDS運動とは何?

もっと知るためのガイド(書籍、映画・ドキュメンタリー、ニュース・情報サイト)

本書より


内容紹介

【緊急出版!ガザを知るための「まず、ここから」の一冊】

2023年10月7日、ハマース主導の越境奇襲攻撃に端を発し、
イスラエルによるガザ地区への攻撃が激化しました。


長年パレスチナ問題に取り組んできた、
パレスチナ問題と現代アラブ文学を専門とする著者が、
平易な語り口、そして強靭な言葉の力によって
さまざまな疑問、その本質を明らかにします。


今起きていることは何か?
パレスチナ問題の根本は何なのか?
イスラエルはどのようにして作られた国?
シオニズムとは?
ガザは、どんな地域か?
ハマースとは、どのような組織なのか?
いま、私たちができることは何なのか?


今を知るための最良の案内でありながら、
「これから私たちが何を学び、何をすべきか」
その足掛かりともなる、
いま、まず手に取りたい一冊です。


本書は、10月20日京都大学、10月23日早稲田大学で開催された緊急セミナーに加筆修正を加えたものです。

公式サイトより


レビュー

 以下の記事

にて記しきれなかった事について補足いたします。


4つの要点

 現在起きていることはジェノサイド(大量殺戮)に他ならない。

 まずは国連総会決議にて全会一致で採択された「ジェノサイド条約」の一部抜粋を御覧ください。

 ジェノサイド条約(抜粋) 1948年署名、1951年発行
 第一条 締約国は、集団殺害が平時に行われるか戦時に行われるかを問わず、国際法上の犯罪であることを確認し、これを、防止し処罰することを約束する。
 第二条 この条約では、集団殺害とは、国民的、人権的、民族的又は宗教的集団を全部又は一部破壊する意図をもって行われた次の行為のいずれも意味する。
 (a) 集団構成員を殺すこと。
 (b) 集団構成員に対して重大な肉体的又は精神的な危害を加えること。
 (c) 全文又は一部に肉体の破壊をもたらすために意図された生活条件を集団に対して故意に課すこと。

本書より

 イスラエルが「ガザ地区及びその他のパレスチナ人」に対して行っているは、まさにこの条文の通りのことですけれども、劣悪な報道により多くの人々には「ハマースとイスラエル間の戦い」というきわめて限定的且つ誤った観点からしか見られておらず、パレスチナにて短期的、中期的、長期的に起きていること(起きてきたこと)が捨象されてしまっていることに大問題であると著者は訴えます。
 
 また本書には、2023年の1~6月までの半年間に起きたパレスチナ人に対するイスラエル人の蛮行の件数が600件に達しているとの情報が記載されています。
 ※しかもそういった蛮行はイスラエル軍の後ろ盾の元に行われているとのこと

 今日的、中期的、長期的な歴史的文脈を捨象しゃしようした報道をすることによって、今起きているジェノサイドにも加担していると言えます。

 著者曰く、私たちは今起きているジェノサイドをなんとかして止めなくてはならい。そのためには表面的にではなく「問題の根本は何なのか」をしっかりと把握しなければならないと記します。きちんとした報道がなされない場合、本来であれば「声を上げていたかもしれない人たち」までもが「暴力の連鎖」「憎しみの連鎖」といった言葉に流されてしまい、「どっちもどっち」という考え方に陥ってしまうことにより、先に進むことがなくなってしまう……と。
 そして「暴力の連鎖」「憎しみの連鎖」のような言葉に落とし込むような報道自体が犯罪であり、出来事を「他人事」にし、「声を上げない」「無関心」でいる側に人々を留めることになる……とも。

 まさにその通りであると思います。

 イスラエルという国家が入植者による植民地国家であり、パレスチナ人に対するアパルトヘイト国家(特定の人種の至上主義に基づく、人種差別を基盤とする国家)であるという事実です。

 ③の説明は全文引用いたします。

これまでの主流メディアのテレビ、新聞の報道で「イスラエルは植民地主義的侵略によってできた国である、アパルトヘイト国家だ」といった言葉をお聞きになったことがありましたでしょうか。そうした歴史的事実をしっかりと報道しないことによって、主流メディアは問題の根源をむしろ積極的に隠蔽していると言えるのです。

 

 ④は説明部分の全文引用から。

 最後の一点です。これまでイスラエルは、数えきれないほどの戦争犯罪、国際法違反、安保理決議違反を続けてきましたが、それを国際社会はひとたびもきちんと裁いてきませんでした。イスラエルに対する不処罰、イスラエルのやっていることは不問に付すという❝伝統❞が国際社会には形成されているのです。
 これをウクライナと比べてみてください。ロシアによるウクライナ進行で、国際刑事裁判所はすぐに動いて、プーチン大統領に対して戦争犯罪の容疑で逮捕状を出しました。
 しかし、「2014年に起きたイスラエルによるガザへの攻撃を、戦争犯罪として調査して欲しい」というパレスチナ側の要求に国際刑事裁判所が応えるまで、実に五年もかかっているんです。調査すると決まってからも、まだ棚上げにされていた。そして調査されないまま、ついにまた、こんな出来事が起きてしまった。
 今、ガザでパレスチナ人のジェノサイドを行っているのはイスラエルですが、では、何がそのジェノサイドを可能にしているのかと言えば、この長きにわたる国際社会の二重基準です。
 ジャスティス(公平さ)も基準は、一つでなければいけません。「こっちには適用されるけど、あっちには適用されない」。そんなものはジャスティスではありません。「公平」であるためには、何人にも等しく適用されなければいけない。
 しかし、ウクライナのように、アメリカにとって都合のいい場合は国際法や人権が声高に主張され、メディアもキャンペーンを張り、アメリカにとって都合が悪い場合は、国際法も人権もまったく顧みられない。

 何十年にもわたる、こうした国際社会の二重基準があり、それを私たちが許してきてしまっているということ、それ自体を問いたいと思います。 


本書未読の方へ

 本書の74~76頁『民主的選挙で勝利したハマース』、77~81頁『抵抗権の行使としての攻撃』、142~144頁『世界は何もしない』、157~160頁『西岸で起きていること』は、全ての情報が重要である本書の中でも、先入観を復してくれるという意味において、個人的にまずおすすめしたい箇所となっております。
 
 著者の記すように、まず問うべきは「ハマースとは何か」ではなく、まずもって「イスラエルとは何か」であり、イスラエルの軍事政権がこれまでどのような犯罪を犯し、今現在どのような犯罪を積み重ねているのか、そしてその背景に長年に渡りどのような政治的問題が野放しにされてきたのかではないでしょうか。
 
 パレスチナで起きていることは、「関係のない」他国の問題ではなく、「直接関係のある」人類の問題であると思います。


 



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