婚約破棄した相手は、絶対に減点されたくないあまりに加点を稼がない人だった
ここ数日、Twitter上で「ネガティブな人より素直にワガママを言う人のほうがコミュニケーションしやすい」という話題が盛り上がっている。以下、特に響いたpostを引用。
私がとら婚で一度婚約し、数年の同棲をへて破局した相手はまさに「自分が傷つきたくないあまりに他人に控えめに接する人」だった。
最初はそれを「優しい人」だと思い、素敵だと、長所だと思った。
しかし、同棲し長い時間をともに過ごすことでそれは彼が必死に身に着けた鎧であったことをようやく理解した。
彼はなんとなく、うっすらと、常に「絶対に怒られたくない」という空気が漂っている人だった。
少し人の気持ちに鈍いところがあったので、これまでも何度か人付き合いが失敗していたのかもしれない。
うまく説明することは難しいのだが、彼の控えめな態度は「私が喜ぶことを考えた振る舞い」ではなかった。「彼が傷つかないように内に閉じこもった振る舞い」だった。
だから例えば、私に何かして欲しいことがないか聞くことはない。私に喜んでもらうことが目的ではないからだ。
いくつか覚えていることを書いておこう。
同棲している間、9割は私が食事を作っていた。別に、それ自体は同棲時の約束だったから構わない。
心に来たのは、「美味しい」「いつもありがとう」の一言がまったくないことだった。「美味しい?」と聞けば「美味しい」と答えてくれる。つまり、"作ってくれた人が喜ぶだろうから伝えよう"という思考がないだけだ。
美味しいと思ってくれているならそれでいいじゃないかと、ずっと耐えていた。それでも一度、実家から贈られてきた食べ物を無言で口に入れてそのまま終わったときは癇癪を起こし、「せめて私の家族には敬意を払ってほしい」と伝えた。
しかし彼はそれにひどく怯えて、私を傷つけたことではなく、自分が傷ついたことに打ちのめされていた。
たまに彼が料理を作ることがあった。メニューはカレーだった。彼はよくよくカレーの裏のレシピを読み、それに忠実に作っているようだった。
食卓に出されたカレーのジャガイモは火が通っておらずシャリシャリしていたが、私はそれを指摘したら彼が傷つくだろうと察して無言で飲み込んだ。
想像するに、彼は間違いなく「レシピに忠実に」作ったのだ。絶対にそれからはみ出すことは(少なくとも彼の主観では)していない。そういう人だったので。
きっと彼には「途中で味見をして調整する」「火が通っているか確認する」というノウハウがそもそもなかったのだろう。奇しくも彼のコミュニケーションを凝縮したような話だ。目の前にある現実を見ず、とにかくお手本通りにすれば上手くいくと思っている。
またあるときは、彼だけが朝食を買いにパン屋に行ったことがあった。「クロワッサンが美味しいらしいから2つ買ってきたよ!」と言われ嬉しかった。彼はそのほかに惣菜パンを2種類買ってきて、クロワッサン×2と惣菜パン×2というメニューだった。
惣菜パン×2を彼が食べた。
私はあまりにも驚いて、何も言えないまま、クロワッサンを2つ食べた。
彼がパンを取り分けるときに見分けがつかなかったのか、総菜パンを両方食べたくなってしまったのか…、これは謎過ぎて本当にわからない。ただ、私と会話してその不均等をコミュニケーションでフォローしなかったことは確かだ。
またあるときは、私の誕生日だった。事前の週末に少し豪華な夕食を食べ、プレゼントも貰った。嬉しかった。
しかし、誕生日当日は何も言われなかった。朝イチで「おはよう」とともに「おめでとう」と声をかけられるものだと思っていた私は面くらい、しかしまあ、後で言ってくれるのかなと思っていた。
しかし、その日の最後まで「誕生日おめでとう」と言われることはなかった。
彼はおそらく、"誕生日なのでプレゼントを渡さなきゃ"という気持ちはあったのだろう。ただきっと、別に私の誕生日を祝いたいわけではなかったのだ。交際のお手本通りにすれば失敗しないと考えているだけで、私を喜ばせたかったわけではないのだ。
こうした小さな彼の失敗は数え切れないほどあり、私は常にストレスを感じていたが、「絶対に怒られたくない」オーラの向こう側にいる彼はあまりにか弱く、憐れすぎて何も言えないことがほとんどだった。自分の失敗に気づくと、他人に何を言われなくともひどいパニックに陥る人だったので、いじめっ子になりたくなかったのかもしれない。
同棲し始めた最初の朝に歯磨きをしようと洗面台の前にいる彼のそばに行って歯ブラシを取ろうとしたら、イナバウアーのごとく私を避けたことを本当によく覚えている。まるで私とは絶対に触れ合いたくないというような素振りで、私は本当に傷ついたが、彼はただ「怒られたくない」という気持ちだけでそれをしたのだと思う。あの時私が「人を過剰に避けすぎるのはいじめっ子の素振りだ」と伝えたら、彼は自分の失敗にガタガタと震えて怯え、同棲も早々に終わっていたのかもしれない。
オドオドと自分の失敗に怯えるくらいなら、目の前にいる私にちゃんと何が嬉しくて何が嫌なのか聞いて欲しかった。
私は人間なのだから、一度失敗したらそれで全部駄目になるわけがないのだから、お互いに修正していけばよいではないか。
あまりにも怯えた態度なので、私はほとんど笑って穏やかに過ごしたつもりだった。真っ向から注意することはなく、「もしよければ、こうしてくれない?」と伝えていた。だから明確に怒った回数はほぼ正確に覚えている。2回だ。前述の「せめてうちの実家の食べ物には感想を言って欲しい」と、「食べ物をタッパーに入れて蓋するときは粗熱をとってからにして欲しい」である。
最後、別れるときには「あなたの態度はパワハラだ」と言われ、まったく脱力した。
ちなみに、今の旦那と喧嘩したことはほとんどない。空気がピリついたことはある。お互いの意見を尊重し、穏やかにコトをおさめようと努力してくれる夫には本当に感謝している。
喧嘩は相手を嫌うからするのではないと私は思っているが、元婚約者とはきっと、その価値観が根本から合わなかったのだろう。
せめて今は彼が心穏やかに過ごしていることを願っているが、正直に言えば、なぜそんな未熟な精神のまま婚活などしたのだと責めたかった気持ちはずっとあるのだ。