『Unexpected expectations(予期せぬ予期)』 AIとの共創による新たな発見
2022年4月9日〜5月8日の期間、京都市内各所で開催された「KYOTOGRAPHIE 京都国際写真祭 2022」、国内外の重要な写真作品やコレクションを展示するイベントです。
AIとの共創で創られた写真集
2001年に、世界最古のシャンパーニュ・メゾン ルイナール(Ruinart)とKYOTO GRAPHIEにより設けられた「Ruinart Japan Award」、この初代受賞者、鷹巣由佳さんの『Unexpected expectations(予期せぬ予期)』が展示されました。
世界中で電話帳は黄色い紙に印刷され「Yellow Pges」と呼ばれています。その地域のお店の電話番号が全部網羅されています。同じように写真を網羅的に集めることはできるだろうか?鷹巣さんは、自分が撮影した10年分の写真が保存されているGoogle Photosを「黄色」で検索してみました。
Google Photosの検索は優秀で、色で検索したり、さらには感情で検索したりできます。色は連続していて橙に近い黄色もあれば緑に近い黄色もあり、個人個人でどの色と感じるかは違いがあります。例えば、私の名刺入れは自分では緑色だと思っていますが、妻は青だと言います。
Google PhotosのようなAIはどのように判断するのでしょうか?鷹巣さんが実際に検索したところ、自分では黄色と思っていない金色の写真などもピックアップされました。思いもよらない画像が選ばれてくるとそこに発見があります。AIが選んだ画像をもとに『Yellow Pages』という写真集を創りました。人間が写真集を創ろうとすると、全体のストーリーを考えてキュレーションしてしまいますが、それだと網羅性が失われてしまいます。AIを介することで「Yellow Pages」のコンセプトが表現できるのです。
そして最も重要なのが、鷹巣さんの写真の一枚一枚がストーリーを感じさせる生き生きとしたものだということ。ページをめくるたびに新鮮さを感じ、素敵な写真集になっているのです。
今回の展示では、ルイナールがフランスで実施した「アート・レジデンシープログラム」に招聘されたときに撮影した写真について、黄色に加え、Googleのロゴカラーである、青・緑・赤でも検索を行い、写真集と室内の展示を制作しました。
個々の写真をフレーム入れて展示するのではなく、ランダムに画像を積み重ねていて、仮想空間に数多の画像が浮かんでいるような幻想的な展示になっていました。
シンギュラリティは来るか
私たちはいかにAIと付き合うべきかという議論はよく行われます。
AIが人類の知能を超えるシンギュラリティということも言われ、米国の作家ダン・ブラウン氏の『オリジン』はそのような世界を描いています。物語の中で、ラングドン教授はAIと共に謎を解いていきます。ダン・ブラウン氏は以下のように語っています。
AIによってもたらされる新たな発見
人間が判断しようとすると先入観に囚われたり、好き嫌いの感情が左右したりとバイアスがかかって、大事なことを見逃してしまうこともあります。AIを活用することで、鷹巣さんのように、新たな発見につなげられるようにしていきたいものです。
その点で活用が進んでいる代表は、創薬などの生命科学と将棋ではないでしょうか。
iPS細胞の山中伸弥先生と藤井聡太 五冠がAIについて議論している対談が面白い。特に将棋はAIが出てきたことで、新しい戦い方が出てきました。
人間独自の力とAIとの共創を目指したい
一方で人間の第六感とか、長年の経験に基づく眼力など、人間にはAIにはない力があります。これらの力にもまだまだ社会を動かすだけの威力はあります。
人間独自の力と、AIの先入観なく判断する力をうまく融合させて、Unexpected expectations、思いもよらぬ新しい発見がもたらされる、そんな共創の場を構築していければと思います。そして、鷹巣さんの作品のようなAIとの共創の事例が蓄積し、それらを集めた「Yellow Pages」が編纂されることを楽しみにしています。