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2024年6月の星の行方


フトダマとマハースターマプラープタ


2024年現在、人知れず社会のあちこちに紛れ込んでいる神さまや仏さまがいます。本来ならわざわざ地上に降りることはないのですが、混迷が極まろうとしている人間社会の中で、人間と同じ目線で地上を味わってみようという体験型のツアーが組まれたのです。ツアーの運営は最大手の天界ツーリスト(TKT)でした。ほぼすべての神さまや仏さまがツアーの申し込みをする中、選ばれたのはごくわずかでした。

今回のツアーの当選者のひとり、フトダマと呼ばれる神さまは祭祀を司る存在で、彼はマハースターマプラープタと呼ばれる菩薩とペアを組んで地上のあちこちを巡ることになりました。

「とりあえず、あっこへ行こか」

彼らが降り立ったのは、いにしえの都「京都」でした。フトダマは、京都に設けられた数々の結界をチェックするために、市営バスを乗り継いであちこちを巡ろうと考えました。しかし、どこもかしこも混雑していて、運良く乗れたとしても人間に挟まれてぎゅうぎゅうになるに違いありません。

「しゃあないな」

フトダマは無口なマハースターマプラープタの手を引いて、タクシーを捕まえることにしました。しかし、空車のランプを灯すタクシーがなかなか見つかりません。痺れを切らしたフトダマは天界ツーリストのツアーコンダクターに問い合わせをしました。

「人が多過ぎてかなわんわ。ちょっとおっきめの雲を用意して。はよーな」

すると、突然京都市内の上空の雲行きが怪しくなってきました。大粒の雨が町中に降り注ぎます。予期せぬ雨に人々が逃げ惑う中、フトダマは舌打ちしました。

「なんで雨雲やねん。こんなんいらんわ」

すると、鞍馬から鴉天狗からすてんぐの一行が急いでやってきて、雨雲を比叡山の彼方にさっさと片付けてしまいました。5分も続かずにまた晴れ間が見え始めた京都市内では、人々が空を見上げて不思議がっています。無表情のまま大きくため息をつくマハースターマプラープタの横で、フトダマはまたひとつ舌打ちしました。

「おっきめ言うてもな、ワシとマハが乗れたら十分や。そんくらいのやつや」

フトダマの要求に、天界ツーリストのツアーコンダクターはこう答えました。

「そうしましたら、ちょうどいいサイズの雲を伏見稲荷に用意しました」

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こじょうゆうやが、宝船のような今この瞬間を表現する感性むき出しマガジンです。毎月1日に配信する『星の行方』や、2024年3月からスタートし…

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