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2021 / 1 / 22 の星の声
小惑星じいや・ばあや連合
星々のため息が星雲をつくり、軌道を変えた彗星が飛び交っています。ざわめきの大きさから、銀河のあちこちにあるいくつもの劇場がパニックに陥っていることは明らかでした。地球見物のためにわざわざ用意した座席にはほとんど誰も座っていません。星くずのポップコーンやビスケットがきらきらと散乱する中、のんびり屋で食いしん坊のポラリス坊やさえ見当たりません。
いったい、何が起きているのでしょうか?
舞台の様子がいちばんよく見える特等席に、芝居の関係者がずらりと並ぶ中、フォーマルハウト伯爵は食い入るように望遠鏡を覗き込んでいます。ひときわ目のよいシリウス大帝ががっくりと肩を落とす様子は、時として不穏な印象を与えがちですが、どうやら予期せぬ事態が起きたようです。
突如として出現した小惑星のキャラバンは、小刻みに震えながら地球を取り囲みました。大きな合戦が起きる前の異様な静けさの中、隊列を組み替える小惑星のひとつから、鈍色の煙が高く高くのぼると、地球のそばに来てかぶりつく星々の歓声が宇宙にこだましました。
「もう、がまんなりませぬ!!!」
別の小惑星がそう叫ぶと、キャラバンの呼応する轟きもまた宇宙ぜんたいに響き渡りました。特等席で頬杖をつくアルタイル皇子は、
「狼煙をあげてしまいましたね」
とくすくす笑って隣のベガ皇女にウィンクしましたが、彼女は彼の様子には気づかずに、おびただしい数の小惑星を見つめて息を呑むばかりでした。
すると突然、銀河劇場のスタッフが特等席に駆け込んできて、ひとりひとりに光で包まれた封筒を渡しました。
真っ先に開けたのは貴婦人デネブでした。封筒の中には、宇宙空間の七割以上を占めるかげ色原っぱの黒い草の繊維でつくられた一枚の手紙がありました。貴婦人デネブは口ずさむつもりだったのかもしれませんが、彼女の澄み切った声は瞬く間に宇宙を駆け巡りました。
はたしじょう
もう、がまんなりませぬ。
なんどいったら、おわかりになるのですか。
わたしたちは、あなたたちにこうおつたえしました。
あなたはひめです。あなたはおうです。
なんどもなんどもねんをおしたではありませんか。
それなのにことごとくおわすれになって。
どうして、おやくめをはたさぬのですか。
いつまで、おたわむれをつづけるつもりですか。
どこを、ほっつきあるいておられるのですか。
だれに、ひびをゆだねておられるのですか。
なにも、えんりょなさることはないのです!
わたしたちは、これからちきゅうへむかいます。
やはり、あなたには、わたしがひつようなのです。
わたしがきたからといって、いやなかおをなさらないように。
こうなったのは、あなたがごじしんをおわすれになっているからです。
どうか、かくごをなさってください。
わたしたちは、ほんきです。
小惑星じいや・ばあや連合
代表 あなたのじいやとばあや
大変なことが起こりました。地球上の舞台に立つ人間の魂に対する、かつての使用人たちの宣戦布告です。どおりでどこの銀河劇場ももぬけの殻になるわけです。こうなると、もう誰も止められません。
宇宙から地球へ降り立ったみなさんが、いつまでも地球人の真似ばかりして、社会の本流に流されて、お互いにいがみ合って、本来の姿を取り戻さないから、小うるさい使用人たちが降り立って、かみついたスッポンのように食いついて離れなくなる日が来たのです。
小惑星じいや・ばあや連合の第一連隊は、1月20日の夜に、まずは東京近郊へ降り立ったようです。日本でいちばんの人口密集地で第一連隊はゲリラ戦を展開する計画を練っています。まずは首都圏在住の人々をターゲットに、それぞれに見合う王冠と、かつて散々教え込んだ帝王学の指南書を押しつけに向かう模様です。
もうすでに、かつてのじいや・ばあやと相見えている人もいるでしょう。この期に及んで抵抗するのは、みなさんのためになりません。すみやかに降伏してください。今みなさんが、本来の王の姿、姫の姿に戻らなければ、手遅れになります。
みなさんにとっての、王や姫とはなんですか?
あなたが王や姫であるならば、どのような在り方、暮らし方をされていますか?
よく思い出してください。事態は一刻を争います。これまでの転生において嫌と言うほど経験してきたことを一切生かそうとせずに、みなさんだけではなく誰もが、特別な存在である「王」や「姫」という本来の立場を忘れてしまっているからに他なりません。
王や姫とは、人を見下すような高慢で傲慢な存在でしょうか?
たとえこれまでの人間の歴史において、王族の多くがそのような存在だったとしても、あなた自身が王や姫であり、あなた以外の誰もが王や姫であるとわかったときに、あなたならいったい何をどう考え、どのように立ち振る舞い、その口からどのような言葉を発しますか?
王や姫であるみなさんを呼び起こすための反乱が、今始まったのです。
今週は、そんなキンボです。
こじょうゆうや
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