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カラフルライフ (2009)


「きっかけは君が描いた魔法の絵」

月曜日、これほど私の気分を萎えさせる曜日はない。私の部屋は南東向き。陽当たり良好。ここ最近は必ず太陽に起こされる。カーテンを透き抜けて不快に思えるくらいの眩しい光が差し込む。

よく考えれば私の部屋は気分を萎えさせるものばかりだ。ベッドに寝かせたぬいぐるみ。姿見の枠に書いた消えない落書き。洗面台には、ディズニーランドで買ったマグカップの中に赤と青の歯ブラシが一本ずつ。見るたびに淡い期待を抱いてしまう自分が馬鹿馬鹿しかった。

せっかくの休みだった日曜日はずっと家の中で過ごしてしまい、泣きどころを覚えてしまったDVDはまたも私の頬を濡らした。そのまま、気がついたら部屋に影が落ちていた。私は無意識に、部屋の電気をつけて、夕飯の支度をはじめようとした。

一人分を作ることは案外難しい。空腹のわけではない。私はキッチンの明かりを消してソファへ飛び込んだ。すっかり暗くなった窓の外。さらに気持ちがふさぎこんでいく。クッションに顔を押し付けたまま、私は眠りに落ちていった。


今日の夢は久しぶりに私の心を和ませた。小さな男の子が私の手を引いて、とてもキレイな世界を案内してくれた夢。

その世界の扉の前に立った私は、扉の向こう側に広がる景色をイメージした。胸の高鳴りを抑えることができなかった。鮮やかに装飾された扉のL字のレバーをゆっくり回す。重い扉を押すと、目映い光が私の身体を包み込んだ。心地よいほどに繊細な光のフィラメントが後押しをして、私はその世界に足を踏み入れた。

まるで色鉛筆で描いたような世界だった。草原の真ん中に延びる一本道の先には噴水がある。エルフの彫刻が刻まれた噴水の前に小さな男の子が立っていた。愛らしく微笑んで私を見つめている。誘われるように私は男の子の元へ歩いた。私たちは自然と手をつなぎ、言葉を交わさないまま歩き始めた。

懐かしさを感じさせるような建物が並ぶ路地。建物や木々から延びる影さえも美しく思えた。それにしても、この世界には人がいない。男の子はどこの生まれの子なんだろう。そんなことを気にしていると、目の前に森が見え始めた。木のアーチができた森の奥は暗くて見えないが、その鮮やかな色彩のおかげか恐怖心は全くなかった。

暗がりの中は、ほんのり涼しい風が吹いていた。男の子は私と同じようにあちこちに目を配り、色鉛筆で彩られたような世界を楽しんでいた。しばらくして、森の奥に光が見えた。男の子は私の手を引きながら光の方へ向かって走り始めた。助走をつけて空へ飛んでいくかのような疾走感だった。

彩り豊かな森が、ものすごいスピードで私の横を過ぎ去っていく。光が近付いてきた。もう少しで飛べる。私の瞳は相当輝いていただろう。笑っていただろう。光が私たちを包み込む――。

ここで私は、太陽に起こされることになったのだ。もう少し続きを見ていたかった。あの後、私は一体どうなっていたんだろう。職場に向かう間は、ずっとそんなことを考えていた。そのおかげか、私のストレス指数が限界付近まで達する満員電車が、今日は大した苦痛に感じられなかった。これもひとえにあの夢のおかげだった。

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