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夜という名の街 (2011)


ランプ



夜という名の街に暮らすアニは読書が大好きで、いろいろな本を読んでは、収まらなくなった本棚のとなりにたくさんの本をつみ上げていて、ときにはその本を使って机やイスなどを作っていた。カラフルな装丁の本はどれもマニマニと呼ばれる大木の皮を使っていて、汚れや傷につよくてとても丈夫なものだ。

ある日、アニがいつものように本を読んでいると、突然部屋のランプの光が消えてしまった。夜という名の街はいつも真っ暗で、彫星師《ちょうせいし》と呼ばれる職人の手で空に刻み込まれた星々が、定点で気まぐれに光ったり消えたりしているけれど、まともな明かりになどならない。

ゆいいつ輝きつづける月はとても高いところに住んでいる生き物で、アニが聞いた言い伝えでは、大昔に月が空で転んで地上へ落ちてしまったときに、月の光が街中を明るく照らしすぎてしまい、街に暮らす人々からひんしゅくを買ってしまったので、月は今、大ペリカンのドーの監視下のもと、ドーのくちばしにつるされて浮かんでいるらしい。もし仮に月が街をぼんやり明るくさせることができたとしても、アニの部屋を明るくするまでにはいたらない。

アニの持っているランプは、アニが夜という名の街をはじめて訪れた頃に、街の外れにある広場で拾ったものだ。広場には黒いシルクハットをかぶった背の高い男がいて、「このランプはもらってもいいんですか?」と尋ねたところ、

「持ち主がいないから、ここに落ちてるのさ」

と言ったので、アニはそれを信じて自分の部屋に持ち帰った。もともと落ちていたものだし、ランプの灯が消えたのはきっと壊れてしまったからだろう、と思ったアニは、ポッドにランプの修理を頼むために真っ暗な外へ飛び出した。

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