クリスマスの思い出
あれは小学校1年生のころだったと思う。
クリスマスが近づいていた。クラスの話題はもっぱら「サンタさんは本当にいるのか」だった。ほとんどの同級生が『サンタさんはやっぱりいないのでは……』とあきらめに近い思いを抱きはじめていたころ、とある噂がまことしやかにクラスの間を駆け巡った。
「アユミちゃんの家には、サンタさんから手紙が届いたんだって」
「手紙は英語で書かれていたんだって」
「しかも、立ち去る足音を聞いたらしいよ」
もうこうなると都市伝説である。それでも、まだサンタさんを信じていたい無垢な我々は、この噂にひとすじの光を見出していたのだった。
我が家にはそれまで一度もサンタさんが来たことがなかった。クリスマスのご馳走は食べたし、プレゼントも、もらうことはもらっていた。ただそれは、おもちゃ屋さんで親から出された「三千円までね」という条件のもと、自分たちで欲しいものを選んで買ってもらうイベントだった。それまで一度も、サンタさんに手紙を書いたことも、朝起きたとき枕元にプレゼントが置かれていたこともなかった。
『アユミちゃんちにサンタさんが来た』という噂を聞いたその年、私は今年こそ、と決意した。今年こそ、サンタさんにプレゼントをもらうんだ。きっとサンタさんは本当にいる。きっと、プレゼントをもらえる。
クリスマスイブの夜になった。もう寝なさい、という母親に私は大きい靴下を出してほしい、とねだった。そんなもんどうするの、とあきれた顔の母親に私は言った。
「サンタさんがくるから。プレゼント入れてもらうために枕元に置くの!」
父親と母親は失笑しながら言った。
「じゃあ、こないだ買った運動靴でも枕元に置いといてあげるから。はやく寝なさい」
たぶんこの時から私はサンタさんを信じられなくなってしまった。この年から12年後、弟は高校中退して家を飛び出した。さらにそれから3年後、母親が家から出ていき、両親は離婚した。
そういうところだぞ、と思う。
こんな子供時代を過ごしたって、いい子にしていれば大人になってからもサンタさんはきてくれるので安心してほしい。