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しょうがない人

昨夜、叔父が亡くなった
叔父は長男、父は末っ子の三男坊
叔父は運動神経抜群で書道の達人、気前がよくて女性にモテる人だった

土地持ちの家庭に生まれた祖母は、農地改革で全て失った元お嬢様
気位が高く、能力で人を判断し、あからさまな贔屓をする人だった

叔父は祖母の期待を一身に受け溺愛されていた
だけど、期待通りの人生を歩むことはなかった
キャバレーの女性と結婚し、従姉を授かった

小学校の校庭で、見知らぬ女性といる叔父を見かけたボクに、何食わぬ顔で「よぉ-」と声をかけてきた
このことを母に言ったものだから、いろいろ騒動になった
若くして叔母が亡くなったが、浮気が原因だと従姉は思っており、父娘は絶縁状態になった

ある日、叔父の部屋で紙切れを見つけた
「借用書」と書かれおり、利息付きで父から借金していた
このときは母には言わず、胸にしまった

祖母の期待を一身に受けた叔父はグレずに育ったものの、自尊心が育たなかったせいか、ギャンブルに身を堕とした
借金を重ね、自己破産した
それ知った祖母は、あっという間に白髪になり、寝たきりとなり、この世を去った

自己破産で本家が抵当に入るところ、どういうウルトラCなのか、うちと本家を入れ替えると、どちらも取られないで済むらしく、叔父がうちに住み、父が本家に住むこととなった

ここから酒に溺れて身を滅ぼす人生もあったと思うが、お好み屋の女将に惚れられ内縁関係となった叔父は、警備員のアルバイトとして真面目に働き、その生涯を閉じた
ほんの数年前、見知らぬ女性といるところを、母が見かけたらしい
八十過ぎて、すごいバイタリティーだ

祖母の期待に応えられなかった叔父
行き場を失ったはずの期待の矛先は、男孫の中で年長の、学業成績が良かったボクに向けられた
ボクの扱いと従弟の扱いは、えげつない程の差があった
ボクの将来は楽しみだったようだが、従弟たちは表六玉だと切り捨てていた

昨夜、電話で叔父の死を知らされ、「冥福を祈ってね」と母から言われた
天寿を全うした享年なら「生前はこんな人でしたね」という話で盛り上がる
8割がいい話、2割が「しょうがない人でしたよね」という笑い話なら、とても人間味のある感じがする

だが叔父の場合、皆が口に出来る話題は少ない
「しょうがない人でしたよね」という思い出話が、とても笑い話にならない
叔父に喜んでもらえるか分からないが、「しょうがない人でしたよね」という話を書くことが、ボクなりの供養だと思った

小学校の運動会で、誰よりも速く走る叔父は格好良かった
祖母から依怙贔屓でもらう小遣いは、あまり嬉しくなかったけど、気前のいい叔父からもらう、タバコを買ってきたお釣りのお駄賃は、妙に嬉しかった
叔父にどことなく親近感を覚えるのは、祖母の期待を一身に受けた初代と二代目という点で
しょうがない人の苦しみに、ほんの少しだけ共感できるからかもしれない

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