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ある日記「やれやれじゃねえよ」2024年12月12日
仕事でとあるお宅を訪問したら出てきた方が英語話者だった。お顔がアジア系だったので日本語で説明していると、困った顔でかぶりを振られ、やっとそのことに気づいたのだった。
「I can only speak English」と言われたので「It’s OK」と答えた。大学まで英語を勉強したし、英米圏の方と三週間旅をして、日本各地の大学でシェイクスピアを演じたこともあった。リスニングはまずできるし、文法はめちゃくちゃでも伝えたいことを表現する自信はあった。
話し出すと自信は焦りに早変わりした。まず自分が何者か伝える語彙がなかった。「Japanese Comedian」が何度も頭をよぎった。くだけた会話ならいくらでも言葉を重ねることができる。しかし、お仕事で会話するとなると、間違ったことを言えない。プレッシャーで脳内辞書は車にひかれたトムのようにペラペラになった。
絞り出した英単語を連ねて、なんとかなんとか伝えていくが、もうこれさえ言えばおしまいというタイミングで言葉が出なくなった。専門用語が簡単な言葉で言い換えられなかったのだ。住民は次第にやれやれといった表情になった。
結局、痺れを切らした住民が日本語の話せるパートナーに電話をかけた。電話先の人に事情を説明して僕は帰った。去り際の僕に対して住民は子供に話しかけるように「OK?」と聞いた。「こんな子が仕事してて大丈夫?」といった感じだった。
僕は自分にがっかりした。自信のあった英語が仕事で使えないとは。これまで何度か芸人仕事で英語を話す機会があったが、困ったことはなかった。カチカチの仕事になるとこうもうまくいかないなんて。受験英語だけでは対応できない場合もあるのだと学んだ。もっと勉強することあるなと思った。
と同時に、「住民の態度おかしくね?」という怒りにも違いバイブスのもやもやが立ちこめた。なんで僕が「やれやれ、大丈夫?」という態度を取られたんだ。ここ日本だぞ。むしろ、英語しか喋れないなんて大丈夫か。
ちなみに、僕の仕事は訪問販売など営利目的の仕事ではない。ざっくり言うと、家に異常があるかチェックし、住民の支出を減らすお仕事だ。紙を投函して警告するだけでもいいが、早めに対処すべきなのでピンポンを鳴らしている。つまり、善意を基本として動いている。
そんな助けの手を差し伸べた人に対して「やれやれ」じゃねえよ。そりゃ最初にこっちが「英語喋れません」って言った方が解決も早かったけどさ。困ってると思ったから頑張ったのに、困らされた顔を向けてくるなんてひどいじゃない。日本語話せなかったら本当に困ることあるぞ、きっと。
あー、もっとちゃんと英語勉強しとけばよかったな。悔しいな。大きな笑顔と「Thank you!」が聞きたかった。
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歯医者さん眉間のしわを見ておくれライトがまぶしいからじゃないんだ
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