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Photo by
shinsukesugie
ある日記「師走の電車」2024年12月22日
電車で酔った中年の男女が仲睦まじくしていた。男はぼそぼそとささやき、女は猫なで声ではしゃいでいた。社内の誰もが一度は声の主を探して周りを見渡した。土曜なのに仕事をして帰る人たちは気が立っていた。
女は自分の方が声が大きいことを棚に上げて「もううるさい」と男を注意した。とても嬉しそうだった。ろれつが回っていないのに「もう酔ってるでしょ」と男をからかった。男は女の脇腹をこちょこちょした。女は男をバシバシ叩いた。
車内はお酒のにおいがした。師走の電車だった。忘年会から送り出された人たちが集まっていた。ガヤガヤとした空気をまとったまま立ち尽くしていた。
女が「あたしオールウェイズお腹すいてるから」と言った。帰国子女ではなさそうだった。たしかにお腹がすいてたまらない季節だった。お酒を飲めばより空くだろうと思った。
恋する男女は周りと違う時間を生きていた。恋は人を恋する時間へと招き入れる。朝夕や季節は背景に追いやられ、飾りとなる。男女がこのまま続いて欲しいと願う時間は電車の中で浮いていた。電車は過ぎ去って欲しいと願う時間を運んでいるからだ。
恋するときはみっともなくていいと思う。恥ずかしいことをしていてもいい。間違いを犯せば、その償いをすればいい。馬鹿にされることより、恋に浮かれることの方が大切だと思う。取り繕うのは一人になったときでいいのだ。恋人たちは社会と断絶した存在だ。互いに作ったルールに従って生きればいいのだ。
男女が電車を降りていった。車内がほっと一息ついた。僕はやっと本に集中できた。
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