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リップグリップの遭遇の反芻

 お笑いは出会いを鑑賞するエンタメだと思う。異なった背景を抱えた人たちが触れあって、驚きあって、笑いあうものだと思う。初めて会う相手だから本音を隠している。だからこそひとっ飛びに心の底まで掘ってしまうことがある。手前の壁を分厚くしているうちに、王宮まで続く地下道に案内してしまうのだ。「なんで俺、こいつにこんな話しちゃってるんだろ…」が頻繁に発生するのがお笑いの面白いところだ。
 僕は人に自分の話をするのが苦手だ。なぜかというと自分がどんな人間か像を描くのが嫌だからだ。昨日の自分とは全く違う今日の自分が生まれて欲しいし、革命のごとく良い人間へと変化していたい。接する相手が喜ぶ人間でありたい。とすると固定した自我が邪魔になるのだ。そうしてのらりくらりと自分を背負う責任から逃れていたら、よく分からない人間になった。
 このところコンビというものについてよく考えている。中学の同級生とコンビになった僕にとって、二人で一緒にいることが当たり前だった。ところが売れないまま三十歳になり、互いにやりたいことを見つけた。相方は評価が鰻登りで、たくさんの仕事が舞い込んできた。バラバラで過ごす時間が増えた。コンビでいる意味は何なのだろう。二人でいる意味はなんなのだろう。そんな問いが降りかかってきた。
 僕の答えは、親愛な他者で居ることだと思う。旅から帰ってきた友人に思い出を尋ねるように、互いの生きた時間を第三者として受け止めることだと思う。そこでどんなに酷い感想を抱いても、溜め込まずに吐き出して、笑いあうことだと思う。
 僕はほとんどの時間を知識と空想の世界で生きている。それならば頭の中の思念に人格を与えて相方に会わせることが、自分を曝け出すことなのではないかと思った。自分を理解しやすい言葉で規定するより、本音を話すことになるのではないだろうかと。
 『リップグリップの遭遇』では岩永が様々なキャラクターに対面する。裁縫箱ドラゴン訓練士・畠山稔侍(はたけやまねんじ)、K-POPアイドル自宅練習生・KAEDE(かえで)、24時間睡眠カウンセラー・滝本昇(たきもとのぼる)、プロ人狼士・三浦佳典(みうらよしのり)、田舎伝説ジャーナリスト・辻元小次郎(つじもとこじろう)の五人だ。もしよかったら、僕を見てくれ。

受け入れられるまで話し続ける。


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