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おにぎりがある平日

 朝起きるとまず土鍋に火をかける。それから水に漬けていたお米を慌てて丼から流し入れる。この順番は逆にすべきだと常々思っている。しかし、馴染んでしまった手順を変えるのは難しい。間違えたと認識する前にやってしまう。久しぶりに訪れる場所に駅から向かう道中、かつて大回りした順路をなぞっていると気づくことがよくある。早目に気づけたときは少し戻って最短経路に乗りなおす。頭より体に覚えさせるのが確実だ。
 土鍋の中を指でむるむるとかき回して米の高さをならす。蓋をして約十分待つ。その間に予約して回しておいた洗濯物を取り込む。洗濯は実動時間と面倒臭さがうまく比例していないと思う。最も過酷な洗うという行為を洗濯機が代行してくれているのを忘れて、やりたくないこと番付の幕内にじょんと構えている。隙間時間にやってしまうと楽に終わる。そうこうしていると土鍋から泡が吹き出してくるので火を止める。
 ノートパソコンで大喜利サイトを開く。LINEでグループに朝活大喜利を開始する連絡をいれる。朝活大喜利とはインスタライブで平日の朝七時過ぎから大喜利をする催しだ。LINEの反応を待たずにライブを始める。自分以外に誰も起きないとしてもやってしまう。最近は一人で喋って大喜利するのにも慣れてきた。
 八時になると朝活大喜利を終える。土鍋のご飯を確認する。しゃもじで軽くかき混ぜる。餅になるくらいこねくり回したくなるのを抑えてしゃもじを置く。ご飯をほぐした状態の最適解がわからない。小皿に塩を小さじ二杯ほど用意する。それから冷蔵庫を開けておにぎりの具を物色する。
 おにぎりの具はおかずがいい。ミートボールやハンバーグや魚フライをレンジでチンする。梅やおかかや昆布は常備しておくのが難しい。小さい冷蔵庫にすぐ食べきれない瓶詰めを置いておくのは大変だ。おかずの買い出しを忘れていたときはお米を漬ける水に白だしを混ぜる。香りと旨みが加わると塩むすびがご馳走になる。
 手を水で流し、皿の塩をこれでもかと手にこすり付ける。このとき塩の量を加減してはいけない。昼に食べる頃にはおむすびは冷め、塩はお米に馴染む。塩の塊をお米に塗りつけるくらいでようやくおにぎりに塩味を付けられるのだ。
 しゃもじで土鍋からお米をすくって手にのせる。熱い。急いで真ん中に窪みを作り具をのせる。めちゃ熱い。もう一度しゃもじでお米をすくって上にのせる。もうやばい熱い。お米と手が触れる時間をとにかく短くするためにころころと転がしながらおにぎりにしていく。熱いというより痛い。おにぎりが三角型になったらラップに包む。いつもここでぎゅっぎゅっと力を込めて握り直してしまい、食べるときにおにぎりの固さに驚くことになる。熱いので少し戻ってやり直すこともできない。でもそんな固いおにぎりを気に入っている。

特装版が家にあるなんて魔法のようだ。


長押しで消されかけると震えだすそうかお前ら居たかったのか

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