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ある日記「支那そば屋」2024年11月15日

 商店街に好きな支那そば屋がある。席はカウンターに七席と二人席の机が二つある。玄関のガラス扉から店の中をのぞくといつも満席で、それなのに待ち列ができてることはない。僕は空いてる席をうまく見つけられたら入ることにしている。おそらく他のお客さんも同じだ。
 店はおじいちゃんが一人で切り盛りしていて、お昼どきにはご家族と思われるおばちゃんが手伝っている。ご家族だと推測する理由は、おばちゃんが愛想を削ぎ落としたスタイルで接客しているからだ。感情を完全に押し殺し、純粋お手伝い生命体として存在している。それをおじいちゃんが注意しないということは、きっとご家族か付き合いの相当長い方なのだろう。
 おじいちゃんはとても元気できびきびと働く。注文は全て記憶しているようだ。明るい調子で対応してもらうとこちらは嬉しくなる。ただ、一つだけ「あれ?」と思うポイントがあって、おじいちゃんはお客さんが食べ終えた器を流しにガチャン!と置く。腹いせに割ろうとしてるくらいの勢いなのでびっくりしてしまう。逆に、と言ってはなんだが、純粋お手伝い生命体おばちゃんは所作が柔らかだ。何も言わずお水のお代わりを入れてくれるが、パーソナルスペースに侵入された感じがない。愛想がなくても不快さがないのだ。二人は良いコンビだと思う。
 ラーメンは塩分を感じる醤油豚骨だ。麺は細くて軽くちぢれていて、普通盛りで二玉分ほど入っている。大きい丼に麺がぎっしりで食べごたえ抜群だ。チャーシューは濃い茶色で分厚く、大きいうえにガチガチに固い。それをスープで温めて歯でほぐすように食べるのが肉肉しくてたまらない。あとはメンマとネギがのって、値段はなんと五百円。原材料価格の高騰は知らんぷりだ。はっきり言ってすばらしい。
 支那そば屋がピンチを迎えたことがあった。真隣にチェーンの喜多方ラーメン屋ができたのだ。しかもかなり美味い。オープン当初は一ヶ月ほど長い行列が切れなかった。巨大資本の手段を選ばない経営にやられてしまったのか、支那そば屋は隣の店の開店日からすっかりシャッターを閉ざしてしまった。
 ところが、こちらがもう店を畳んでしまうのかとヒヤヒヤしたところで、支那そば屋はふらっと営業していた。ガラス扉から中をのぞいてみると相変わらず満席だった。地元に愛されるとはつまり、住民たちの当たり前になることなのだと知った。

特製だとゆで卵もついてくる。

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