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ある日記「券売機」2024年12月3日

 券売機っておもしろい。お金を入れて券が出てくるのがいつだってうれしい。お金が券に変身したようだ。お札が日本銀行券と呼ばれるようにお金はそもそも券なのだけど、食券という状態を挟むことで、お金が商品にメタモルフォーゼすることが意識される。券とはプリキュアが虹色に輝いている姿なのだ。お金が上から入れられて、食券として下から出る間に、キラキラを放出しながら生まれ変わっているのだ。
 券が排出口にぺって出される投げやりな感じがいい。おつりもついでにぺって出される。券売機が「お仕事終わり」って言いたいみたいだ。食堂のおばちゃんが水を入れたグラスを机にカッと置くあの乱雑さが思い出される。サービスは何をしたかが重要で、どのようにしたかは問題外であるというあの態度が。
 ちっこい紙の券が出てくるのも好きだが、色々なカラーのプラスチックの板が出てくるともっと好きだ。銀の受け皿とぶつかってカランと乾いた音を出す。僕がよく行くラーメン屋では食洗機にプラ板を入れて、洗い終わると店員がタオルで懸命に拭く姿が目視できる。もはや直接勘定した方がラクなのではないかと思うが、いつまでもそうやっていて欲しい。人に握られ、受け皿に落とされ、激しく洗われたプラ板は角が削られて傷だらけで小さくなっていく。
 ボタンをカチッと押せるタイプの券売機が好きだ。チェーン店ではタッチパネルの券売機が増えてきて少し寂しい。ボタンを押す感覚がある方がテクノロジーに触れている感じがある。歯車が回って機械が動いている想像ができるからだ。
 また、物体としてボタンがあると、券売機の表面積に限りがあるため、メニューの数が決められる。お店がやりくりしてメニューを並べ、系統ごとにまとめられたりしてるのが見ていて気持ちいい。自分の目当てのメニューを探しているときに、「このお店、瓶コーラあるじゃん」とか「チャーシュー丼ありだな」とか誘惑されて迷うのが楽しい。メニュー名が簡略化されていて、その正体を想像してみるのもいい。
 券売機のなかには「ありがとうございました」など音声が流れるものがある。音響機材に力を入れてないため、いかにも録音された音声がローファイな音質で流される。音質が悪ければ悪いほど券売機が機械であることが意識されてうれしくなる。別に音声が流れなくても何とも思わないし、流れても何とも思わない。そんな音声の存在が気軽さを演出してくれる。
 机に注文用のタブレットを置くお店が増えてきた。そのタブレットが小さい券売機になるなんてことないだろうか。おままごとで使うおもちゃの自販機みたいなやつが机に置いてあったら、いつもより多く注文してしまいそうだ。


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