ある日記「芸人がスーパー銭湯でネタ作り」2024年11月6日
真似したい逸話がいくつもある。文豪が旅館で執筆したなんてのは特にやってみたい。取材に講演に引く手数多の小説家が、世間の騒がしさから逃れ、風光明媚な土地で執筆に集中する。仕事のために自分をリフレッシュできる。なんて素晴らしいご身分だろう。
僕だって最近は文章を書くことが多くなった。誰かに頼まれた仕事をしている訳ではないが、「執筆活動」と銘打ってもいい気がしている。ネタだって書いている。「よし、それなら」とスーパー銭湯に行ってきた。旅館はまだ早いまだ早い。
スーパー銭湯に着くとまず作業に取りかかった。いきなり娯楽に走っては興が醒める。あくまで執筆のために足を運んでいるという大義名分が、僕の魂を文豪の格まで押し上げてくれる。充電器付きのワークスペースで、横のマットに寝転んで漫画を読んでいる他の利用者を尻目に、ギャグ作りに精を出した。あんまり進まなかった。
小一時間過ぎたところでPCをパタンと閉じた。岩盤浴に行きたい。日頃の疲れを汗と共に流したい。どうしたんだい、僕。岩盤浴ならすぐそこにあるじゃないか。作業用のあれこれをロッカーにしまい込み、マット用のタオルを掴んで岩盤浴ゾーンに向かった。
岩盤浴が六種類あった。プラネタリウムになってるものや、全面鏡張りになってるものがあった。どうも落ち着かなかった。よりこだわりの無いものを求めて移動しても寝床が小石で敷き詰められていた。石が誰かの汗でコーティングされて、アロマが焚かれて、落ち着かなかった。どうしよう落ち着かない。そして、とりあえず寝た。起きたら三十分経っていた。部屋を出ると館内着が汗を吸って全盛期の冷えピタみたいになっていた。大満足だった。
汗を流しに浴場へおもむいた。体を洗い清め、サウナと水風呂と外気浴で整った。寒くなってきたら炭酸泉に浸かった。温度がぬるめの設定でゆっくり溶けるのにちょうどよかった。湯船にお化けかぼちゃが浮いていた。世間はハロウィンであった。
再びワークスペースに行くと、瓶のコカ・コーラの自販機を見つけた。コーヒー牛乳一気飲みを取りやめてコーラを飲んだ。瓶のコーラ、500ml缶のコーラ、缶のコーラ、ドリンクバーのコーラ、ペットボトルのコーラの順で好きだ。つまり、シウマイのコカ・コーラピラミッドの頂点を極めしコーラを飲んだ。大きなゲップをひとつした。
ワークスペースの椅子に座り、『短歌研究』を開いた。ギャグを作るときはいつも短歌を読んでいる。短歌の世界に思いを馳せているとすんなりおやすみしていた。気持ちのいい落ちていくような眠りだった。
起きて食堂に向かった。サウナ飯を求めていた。お腹ぺっこぺこだったが、頭はすっきりしていた。メニュー選びにおいて食欲対味覚の戦いは互角だった。ジャンキーと風情のドッグファイトを制したのは「秋の味覚御膳」だった。カツオのたたき、茄子味噌田楽、牡蠣フライのトリプルパンチ。食欲と味覚は戦わせるより仲良くなる方がいいもんね。
ご飯のあとはちょこっと作業して帰った。誘惑に負けっぱなしの一日だった。芸人の身丈に合ったオフの使い方だったのではないだろうか。とはいえ、文豪だって旅館で何してかわからないもんね。いっしょだよきっと。
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