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ある日記「はりきった店長」2024年10月17日

 いい焼肉屋に行った。店長がはりきっていた。
 地下一階にある店は外の階段を降りたところに入り口があった。壁がガラス張りで階段を降りながら店の中が見渡せる。つまりは中から階段を降りる客を眺めることができるということだ。客の到着に気づいた店長が店の入り口で扉を開けて待っていた。なぜかちょっとプレッシャーを感じた。いい焼肉屋のハイグレードなおもてなしなのだろうけど。店長は腹から「いらっしゃいませ!」と低音ボイスを発して出迎えてくれた。扉を開けてくれるのはいいのだが、入り口に体が入っていて、横を通り抜けるのが少し窮屈だった。もちろん嫌という訳ではないが。
 席に着くと予約していたコースが始まった。飲み物は生ビールを注文した。きめ細かい泡と液体のバランスが完璧で、グラスも口のところがわずかに広がってるお洒落なやつだった。前菜のナムル四種とキムチから美味しくて、生ビールをあっという間に空けてしまった。グラスにビールがわずかに残ってる段階で店長に「お次はいかがなさいますか?」と聞かれた。ここでもなんとも言えない圧を感じた。一杯だけに留めておくつもりだったが勢いでお代わりを注文してしまった。もちろんいいのだけど、ビールはお代わりも美味しかったのだけど、大満足なのだけど、もやっとした。
 テーブルにサーブしてくれたのは店長と若い子だった。若い子は入りたてらしく、店長にいろいろと指南されていた。お皿を下げるときに少し余裕を持つことで、客が残った料理を平らげて皿を下げさせてくれる可能性を考えろ、という細かい指示もしていた。それ自体は大変素晴らしいことなのだけど、僕の席のすぐ後ろで注意するものだから、全部丸聞こえだった。結果、入りたての子は店長にミスを見つけられないために、店長がいない隙に皿を下げようと必死になっていた。
 いい焼肉屋の厨房が気になって、キッチンをジロジロと眺めていると、店長が「何か質問ありますか?」と聞いてきた。これは誤解を生んだ僕が悪い。なんでもないことを伝えて謝ると、店長は流れで店の歴史を語った。新しくて綺麗な店内からは想像できないほど長い歴史があった。店の床も張り替えたばかりらしい。多分だけど、歴史は客に向けてではなく少し遠くにポジショニングしていた入りたての子に向けて話していた。店長はお洒落な店内に似つかわしくないくらい腹から声を出していた。
 店長がはりきっていたのは、おそらく入りたての子に手本を見せたかったからだろう。そして、手本を見せる自分の姿で他の店員にも威信を示し、焼肉屋を一段階上のランクの店にしたいのだ。ただ、店長のはりきりは裏目に出ていると思った。コンクリート打ちっぱなしの天井やテーブルに一つの小さな焼肉プレートなど、引き算風の内装でミシュラン星アリ感を出すつもりにしては、注文を受けたときに全員で「YES!」と叫ぶのは熱血過ぎる。店長は足し算が好きに違いない。タレも見た目より塩っぱかった。
 コースが終わると、シズラーでも出てくる海外のちっこい飴をくれた。飴だけど焼肉屋で貰えるガムと全く同じ味がした。いろいろまるっと好きになった。また来たいと思った。

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