ある日記「独り言なのに言い訳」2024年12月20日
「どうしよう忘れてた」とつぶやきながら走った。いつもより早く職場に着かなければならないのに、いつも通りの時間に家を出てしまったのだ。相手先への謝罪は何と言おうか。朝とは思えないほど言葉がぽっぽっと浮かんだ。目当ての電車に乗り、運良く座って息を吐いた。
ここに白状すべきことがある。僕は早く出勤するという予定を忘れていなかった。いつもより早く目覚ましをかけ、ぱっちり目を覚ました。その上で、布団から出たくなかったのだ。起きているのに、目を覚ます為とYouTubeを開いた。SNSをチェックした。寝る前に読み終わった漫画アプリを開いた。
スマホの吸引力に負け、普通の出勤時間でも遅刻するくらいになっていた。布団を跳ね除けて、パジャマを脱ぎ散らかした。下の階の住民に申し訳なくなるほどドタドタと部屋を歩き回った。本当に遅刻しそうになっていた。
玄関から飛び出して、燃えるゴミの日だと思い出し、ゴミ箱まで戻り、ついでにリップクリームを塗った。もう一度玄関から飛び出し、収集車がまだ来てませんように、と祈りながらゴミ捨て場を見た。カラスよけの網の下に置かれたゴミがすぐには見つからないほど少なくて、心臓がばうんと打った。
駅までの道を走った。走らなければならないのは自分のぐうたらが招いた結果だ。過失ではなく故意の犯行だ。早く出発しなければならないことは脳裏にびっとりと貼り付いていた。にも関わらず、朝にゆっくりすることを選んだのだ。
独り言をつぶやいていた。「うわー」とか「やばい」とか誰に向けるでもなく言っていた。そして口から出てきたのが「どうしよう忘れてた」だった。片時も忘れてなどいないのに。まるでその瞬間に思い出したかのように自分を演出していた。
言い訳を自分に聞かせてどうするというのだ。迷惑をかけてしまう人に言うべき丸っ切り嘘の言い訳を。いざとなれば謝罪の言葉だけ伝えて、誠意を見せたようにするのに。言い訳なんてダサいと信じているくせに。
ピンチに直面すると、そのとき物心ついたかのように自分の意識を更新してしまう。今までやってきたこと、できなかったこと、募っていた嫌な予感を無かったことにするのだ。あくまで巻き込まれて窮地に立たされているのだと、自分で自分を騙す。僕はプレイ時間をリセットして、ニューゲームで問題を解決したいのだろう。
行き過ぎたリセット志向が自意識を騙そうとしてしまう。反省すべき怠慢をなかったことにする癖が生まれていた。自分の人生をスクリーンにして『メメント』でも上映しようというのか。
でもやっぱり、独り言なのに言い訳をつぶやくことはやめられなさそうだ。もしかすると心のセーフティーネットかもしれないから。
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