手汗の薬が発売された意味
手汗の薬
先日 手汗(原発性手掌多汗症)に対する治療薬が発売された。
アポハイドローション
詳しい作用機序などは以下の記事が参考になる。
アポハイドローション(オキシブチニン)の作用機序【手掌多汗症】
手にスプレーする薬で、アセチルコリン受容体をブロックすることで手汗を減らすらしい。
以前は手汗は不安・緊張・ストレスなどが原因の精神疾患(正確には心身症)とみなされてしまうことがあったものの、こうやって次第に身体疾患として治療方法が増えていくことは大変喜ばしいことである。
自分のような精神科医は、なんでも精神的な症状だったり、ストレスによるものと捉えてしまいやすい。
もちろん手汗は不安・緊張・ストレスで増加することが多く、精神的な要因が影響しているものの、なんでも精神症状、なんでも精神疾患とみなしてしまうことは避けなくてはならない。
手汗で困っている人の多くは、
体質的に手汗をかきやすい
↓
不安・緊張・ストレス
↓
手汗がひどくなる
↓
恥ずかしい、困った、まずい、焦る
↓
ますます手汗がひどくなる
という悪循環に陥りやすい。
これを精神症状と捉えすぎてしまうと、抗不安薬や抗うつ薬などが出されやすく、結果的に治療が長引いてしまう。
手汗が増える
↓
スプレーする
↓
手汗が少し減る
↓
それなりに普通の生活ができる
という形になるのが自然で良い。
精神科・心療内科は治療対象とする疾患を狭くすべきである
自己否定につながるものの、精神科・心療内科は治療対象をできるだけ広げないほうが良い。
精神的な要因があったとしても、ある程度改善する薬が発売され次第、極力その疾患の治療からは手を引くべきである。
円形脱毛症(いわゆる10円はげ)も以前は精神的な要因が大きいと言われていたものの、現在は自己免疫疾患であることがはっきりしている。
健常者と精神疾患を区別するのは多少弊害があるものの、わかりやすくするために区別する。
精神科医は、健常者から精神疾患になりかかっている人を、健常者の世界に押し返し戻ってこないように努力をすべきである。
多くのクリニックのように、なんでもいつでも気軽に相談してくださいと誘い。
相談に来たら「大変だったでしょう」「みんなあなたのつらさを分かってないですね」と優しく対応し、薬を出して、次回の予約を入れる。
そういうちょっと不安定になった健常者を精神疾患の世界に引きずり込むようなことをしてはならない。
ちゃんとした治療法が確立され、どんどんと精神科医が治療を行う疾患が少なくなることを期待している。