皿洗いで飲む (パリッコ) 〜『のみタイム 1杯目 家飲みを楽しむ100のアイデア』より公開! ④〜
こんな状況でも、楽しいお酒の飲み方はあるはず
若手飲酒シーンを牽引する人気ライターのパリッコ(『酒場っ子』)とスズキナオ(『深夜高速バスに100回ぐらい乗ってわかったこと』)が編集、執筆を務める飲酒と生活の本『のみタイム』。
1杯目は100頁以上にわたり「家飲みを楽しむ100のアイデア」について考えました。日常を楽しくする、使えるアイデアが満載!
2020年の前半、わたしたちはこんな「のみタイム」を過ごしていました。
047 皿洗いで飲む (パリッコ)
(パリッコ/スズキナオ『のみタイム 1杯目 家飲みを楽しむ100のアイデア』より)
皿洗いが好きだ。皿洗いには他の家事にはない、抗いがたい魔力のようなものがあると、個人的に信じている。
シンクに適度に溜めこまれた食器類を手に取り、洗剤を垂らしたスポンジでスルスルとこすってゆく。洗った食器は、シンクの横に、順番を考えながら積み重ねてゆく。キャンパーの人々は、様々なアウトドア食器をなるべくかさばらないように積み重ねてひとまとめにする、スタッキングという行為に喜びを感じるらしい。隙間なくスポッと重なる、同じメーカーのものではないふたつの皿を見つけたりすると、異常に興奮するそうだ。食器洗いもそれに似ている。シンクに雑多に放り込まれた食器たちを、順番を考えて手に取りつつ、洗ってスタッキングしてゆく喜び。
それを今度は、清らかなる流水で、次々にすすいでゆく。その際にもポイントがあって、まずは空になったシンクの底をスポンジで丁寧に洗う。そこに、積み重ねた皿を戻す。一番上の皿に向かって、勢いよく水を流す。これを我々の業界では「シャンパンタワー方式」と呼ぶ。皿を1枚手に取ってすすぐ、その間にも、他の皿たちが「下すすぎ」とでもいう状態でスタンバイしてくれている、その効率にクラクラする。
1枚、また1枚とくり返すうち、心の中に溜め込まれていたよしなしごとは皿の汚れとともに流れ落ちてゆき、頭の中はどんどんクリアになり、やがては瞑想状態に……。というとちょっと大げさだけど、なんだか妙に気持ちよく、楽しいことは確かだ。僕は、この行為は、チベット仏教において、1回まわせば1回読経したのと同様の功徳(くどく)が得られるという車輪状の器具「マニ車」にも近いと思っている。1皿洗えば、煩悩がひとつ減る。
ところで、こんな気持ちのいい行為を酒とともに楽しまない手はない。洗う前、好きな酒を用意し、グビリとひと口飲む。大きめの皿族の積み重ねまでが終わったら、また飲む。小さめ族も同様。大きめ族のすすぎが終わったら飲む。小さめ族も同様。そうやって、皿洗いによって減少した煩悩を即時に補充していく。変態キッチンドリンカーだ。
もっとも洗い心地の好きな皿が、IKEAの「OFTAST オフタスト サイドプレート ホワイト19㎝(税込79円)」であることや、実はタッパーは死ぬほど洗いたくないことなど、このテーマは、書こうと思えば本1冊分でも書くことがあるが、今回は割愛する。(パ)
パリッコ/スズキナオ(編著)
『のみタイム 1杯目 家飲みを楽しむ100のアイデア』
2020年8月5日発売 発行:スタンド・ブックス 本体1,500円(+税)ISBN:978-4-909048-09-7 C0095 A5変型判 並装 132p
カバーイラスト:石山さやか ロゴ:スケラッコ デザイン:戸塚泰雄
パリッコ(編著)
1978年東京生まれ。酒場ライター、漫画家/イラストレーター、DJ/トラックメイカー、他。酒好きが高じ、2000年代後半よりお酒と酒場に関する記事の執筆を始める。著書に『酒場っ子』(スタンド・ブックス)『つつまし酒 懐と心にやさしい46の飲み方』(光文社新書)『ほろ酔い!物産館ツアーズ』(ヤングキングコミックス)『晩酌百景 11人の個性派たちが語った酒とつまみと人生』(シンコーミュージック・エンタテイメント)、スズキナオ氏との共著に『酒の穴』(シカク出版)『椅子さえあればどこでも酒場 チェアリング入門』(ele-king books)『“よむ”お酒』(イースト・プレス)など。