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その海苔巻きは、涙の味がした

私には、親子ほど歳の離れた従兄弟がおりましたが、癌を患い、53歳という若さで他界したのが、21年ほど前のことでした。

当時、お付き合いしていた彼氏と横浜市内で同棲していた私は訃報を聞き、せめてお通夜だけでも…と、電車に揺られ2時間かけて地元の斎場まで向かいました。

通夜は滞りなく終わり、御斎に振る舞われたお料理とお酒を少々いただきながら、久しぶりに会った家族や親戚と、従兄弟の思い出話などをしました。

帰り際、香典返しのお品と一緒に、海苔巻きを包んで持たせていただきまして。

彼がお腹を空かせて待っていると思ったので、お礼を言って受け取り、帰路につきました。

アパートに帰ると、やはり彼は食事をしていなかったので、

「お腹すいたでしょ?これ食べて」

と、海苔巻きをテーブルに出しました。

「…何これ?どこかで買ったの?」

「ううん、斎場で持たせてくれたの」

するとですね、彼はなんともイヤ〜な顔をして、こう言い放ったのです。

「何でそんなもん持って帰って来るんだよ?通夜の席で出された残り物だろ?」

「何でって、これは御斎の…」

と、言いかけましたが、彼に遮られました。

「縁起でもない!普通そんなもん持って帰ってこないだろ?」

「そんなことないよ!こうして持たせてくれるものだよ?それに『そんなもん』って言い方ないでしょ?」

「見ただけで気分悪いわ!こんな縁起の悪いモノ食えるかよ!コンビニでなんか買ってくるから、捨てとけよ!」

…温厚なはずの彼の言葉は、私にとってあまりにも衝撃的すぎました。

(うっかり入る部屋を間違えたのだろか…?アレは本当に彼だったのだろか?)

そのような思考に陥り、大きな音を立てて閉じたドアをぼんやりと見つめながら、立ち尽くしましたが。

しばらくして、気持ちが徐々に変化してきました。

確かに彼にとっては縁もゆかりもない人のお通夜でしたが。

『縁起が悪い』『そんなもん』などと言いたい放題に言われ、亡くなった従兄弟を侮辱されたように感じたのですよ。

彼はそれまで葬儀に参列した経験がほとんどなかったらしく(それは幸いなことなのですが)不祝儀ごとに不慣れでした。

それを差し引いても、従兄弟を失った私にとって、あまりにも思いやりに欠ける発言でしたので、半べそになりながらも、一人で海苔巻きを完食しました。

彼とはその後、婚約までいきましたが、やはりご縁がなかったようで、結婚間近に破談となったのですが。

この一件を機に、価値観が違いすぎることや、それまで知らなかった彼の一面も確認できました。

あのまま結婚していても、きっと先々上手くいかなかっただろうなと、今は思っております。
 
21年経っても、この季節になると嫌でも思い出す、若かりし日の苦い出来事でした…。

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