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アツすぎたファンレター
何を隠そう私は、Sという俳優の大ファンである。
ファン歴十数年、彼の出演作品はもれなくチェック。
映画の舞台挨拶には様々な手を使い、連続で三回も行った。
冬に控えた主演舞台のチケットも、もちろん押さえてある。
彼のファンになって半年ほど経ったある日の夜、アツイ想いを伝えるべく、人生初のファンレターを書いた。
軽い自己紹介から始まり、出演作品への感想、どれほど彼のことを想っているか等々、熱っぽく書き連ね、気づけば便箋十枚にも及ぶ超大作に仕上がった。
便箋を折りたたみ、封入すると、封筒が膨らみを帯びるほどだったけれど、徹夜で書き上げ高揚感に包まれていた私は、ためらいもなくポストまで行き、投函。
数日経ったある日、外出先から帰宅した私に、同居の父親がなんの前触れもなく、こう訊いてきた。
「お前、役者に手紙を書いただろ?」
もちろん、ファンレターを出したことは誰にも話しておらず、なぜ父親が知っているのかと動揺しつつ、ある考えが脳裏をよぎった。
(まさか、彼から返事が・・・?)
胸の高鳴りを抑えつつ、なぜ知ってるの?と尋ねると、父親はニヤニヤしながらこう続けたのである。
「手紙、料金不足で戻ってきてるぞ!」
あれから十数年。厚すぎて舞い戻ってきてしまったファンレターは、今も私の手元に残っている。
なんとも気まずく、しょっぱい思い出とともに。
※ほぼノンフィクションです。