コロナ禍前後の婚姻数変動と未来戦略
洞房花燭(どうぼうかしょく)という言葉は、古代中国の結婚習慣に由来する。
「洞房」は新婚夫婦の寝室を、「花燭」は祝宴で灯される花で飾られた灯りを意味する。
つまり、この四字熟語は新婚の夜や結婚そのものを美しく表現した言葉だ。
この言葉の起源は、後漢時代の風習にさかのぼる。
当時、結婚式の夜に新郎新婦の部屋を花で飾り、燭台に灯りをともす習慣があった。
これが「洞房花燭」の語源となっている。
日本には平安時代に伝わり、和歌や物語の中で理想的な結婚の象徴として使われてきた。
例えば、源氏物語の中にも類似の表現が見られる。
現代では、この言葉は単に「結婚」や「新婚」を意味する雅やかな表現として使われることが多い。
しかし、その背景にある「新しい人生の門出を祝福する」という本質的な意味は、今も変わらず人々の心に響いている。
ところが、この伝統的な概念を取り巻く現実は、近年大きく変化している。
特に、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックは、結婚のあり方や婚姻数に劇的な影響を与えた。
そこで本稿では、コロナ禍前後の婚姻数の変動を詳細に分析し、「洞房花燭」の現代的な意味を探るとともに、結婚や家族のあり方の未来を考察する。
コロナ禍における婚姻数の激減
COVID-19のパンデミックは、人々の生活のあらゆる面に影響を与えたが、特に大きな打撃を受けたのが結婚だった。
感染拡大防止のための様々な制限により、多くのカップルが結婚の延期や規模縮小を余儀なくされた。
以下、厚生労働省の人口動態統計に基づき、コロナ禍における婚姻数の変化を詳細に分析する。
- 2018年:586,438組
- 2019年:598,965組
- 2020年:525,490組
- 2021年:514,242組
2019年から2020年にかけて、婚姻数は73,475組減少した。
これは12.3%の減少率であり、単年度での減少としては過去最大級の落ち込みだ。
さらに2021年には、前年比で11,248組(2.1%)減少し、さらに低い水準となった。
2020年の月別婚姻数を2019年と比較すると、以下のような特徴的な変化が見られた。
- 1月:49,227組 → 46,433組(5.7%減)
- 2月:45,355組 → 42,897組(5.4%減)
- 3月:55,380組 → 37,865組(31.6%減)
- 4月:51,610組 → 29,536組(42.8%減)
- 5月:54,909組 → 29,636組(46.0%減)
- 6月:45,520組 → 37,350組(17.9%減)
- 7月:49,407組 → 45,355組(8.2%減)
- 8月:44,303組 → 41,491組(6.3%減)
- 9月:51,447組 → 47,486組(7.7%減)
- 10月:58,950組 → 54,295組(7.9%減)
- 11月:51,542組 → 46,934組(8.9%減)
- 12月:41,315組 → 36,212組(12.4%減)
特に注目すべきは、最初の緊急事態宣言が発出された2020年4月から5月にかけての激減だ。
この期間、婚姻数は前年同月比で40%以上も減少している。
これらのデータから、コロナ禍が結婚に与えた影響の大きさが明確に読み取れる。
特に、大規模な集まりが制限されたことや、経済的不安が増大したことが、婚姻数減少の主な要因だと考えられる。
さらに、この傾向は単なる一時的な現象ではなく、結婚に対する人々の意識や価値観にも影響を与えた可能性がある。
例えば、小規模な結婚式や家族だけの挙式など、新しい形の結婚スタイルが注目されるようになった。
これらの変化は、結婚産業全体に大きな影響を与えている。
日本ブライダル文化振興協会の調査によると、2020年のブライダル市場規模は前年比54.7%減の1兆795億円まで縮小した。
特に、結婚式場や結婚式場運営会社の売上は前年比66.9%減と大幅に落ち込んだ。
一方で、このような状況下でも新たなビジネスチャンスを見出した企業もある。
例えば、オンライン結婚式サービスを提供するスタートアップ企業「Zoom Wedding」は、2020年3月のサービス開始以来、急速に利用者を増やした。
同社の発表によると、2020年中に1,000組以上のカップルが同サービスを利用して結婚式を挙げたという。
このように、コロナ禍は結婚のあり方を大きく変え、関連産業にも劇的な変化をもたらした。
では、コロナ禍が収束に向かう中、婚姻数はどのように変化しているのだろうか。
次のセクションでは、最新のデータを基に、その動向を詳しく分析する。
コロナ後の婚姻数回復
コロナ禍の影響が徐々に和らぎ、社会経済活動が正常化に向かう中、婚姻数にも変化の兆しが見え始めている。
以下、最新のデータを基に、その動向を詳細に分析する。
厚生労働省の人口動態統計の概数(2023年6月発表)によると、2022年の婚姻数は501,116組だった。
これは、前年比で13,126組(2.6%)の減少となっている。
一見すると、依然として減少傾向が続いているように見える。
しかし、月別のデータを詳しく見ると、興味深い傾向が浮かび上がってくる。
- 1月:38,560組(17.0%減)
- 2月:33,231組(22.5%減)
- 3月:42,205組(11.5%増)
- 4月:41,583組(40.8%増)
- 5月:39,410組(33.0%増)
- 6月:40,238組(7.7%増)
- 7月:44,026組(3.1%減)
- 8月:41,250組(0.6%減)
- 9月:46,615組(1.8%減)
- 10月:52,248組(3.8%減)
- 11月:45,357組(3.4%減)
- 12月:36,393組(0.5%増)
この月別データから、以下のような特徴が読み取れる。
1. 年初の落ち込み:
1月と2月は大幅な減少を記録。
これは、オミクロン株の流行による第6波の影響と考えられる。
2. 春季の大幅回復:
3月から6月にかけて、前年同月比で大幅な増加を記録。
特に4月は40.8%増と顕著な回復を見せた。
3. 夏以降の緩やかな減少:
7月以降は、前年比でわずかな減少傾向が続いている。
ただし、その減少幅は2021年と比べて大幅に縮小している。
4. 12月のプラス転換:
12月には0.5%ながらプラスに転じており、回復の兆しが見える。
これらのデータは、コロナ禍の影響が徐々に薄れ、結婚を選択するカップルが増加し始めていることを示唆している。
特に注目すべきは、春季の大幅回復だ。
この時期は、2020年と2021年に結婚を延期したカップルが、一斉に式を挙げた可能性が高い。
いわゆる「リベンジ婚」の影響と考えられる。
ブライダル総研の調査によると、2022年に結婚式を挙げたカップルの約25%が、コロナ禍で延期した式を実施したという。
この「延期組」の存在が、春季の婚姻数回復を後押ししたと考えられる。
また、結婚式のスタイルにも変化が見られる。
同じくブライダル総研の調査では、2022年に挙式したカップルの約40%が、50人以下の小規模な結婚式を選択したという。
これは、コロナ禍を経て、「身近な人たちと過ごす大切な時間」を重視する傾向が強まったためと分析されている。
さらに、テクノロジーの活用も進んでいる。
結婚式場大手のTAKE AND GIVEニーズは、2022年からバーチャル参列サービス「TOKYO WEDDING VISION」の提供を開始。
会場に来られないゲストもVR空間で式に参列できるサービスだ。
同社によると、2022年の利用率は全挙式の約15%に達したという。
これらの新しいトレンドは、結婚のあり方そのものが変化していることを示唆している。
コロナ禍を経て、人々の価値観や優先順位が変化し、それが結婚式のスタイルや婚姻数の動向にも反映されているのだ。
次のセクションでは、コロナ前後の婚姻数を比較し、その変化の本質を探る。
コロナ前後の婚姻数比較
コロナ禍は確かに婚姻数に大きな影響を与えたが、その変化の本質を理解するためには、より長期的な視点で婚姻動向を分析する必要がある。
ここでは、コロナ前後の婚姻数を詳細に比較し、その変化の背景にある要因を探る。
- 2015年:635,156組
- 2016年:620,531組
- 2017年:606,863組
- 2018年:586,438組
- 2019年:598,965組
- 2020年:525,490組
- 2021年:514,242組
- 2022年:501,116組
この8年間のデータから、以下のような特徴が読み取れる。
1. 長期的な減少傾向:
2015年から2019年にかけて、婚姻数は緩やかな減少傾向にあった。
この5年間で約36,000組(5.7%)減少している。
2. コロナ禍による急激な落ち込み:
2019年から2020年にかけて、約73,000組(12.3%)の大幅減少が見られる。
3. コロナ後の緩やかな減少継続:
2020年以降も減少傾向は続いているが、その減少幅は縮小している。
これらのデータは、コロナ禍が既存の長期的トレンドを加速させた可能性を示唆している。
つまり、婚姻数の減少はコロナ以前から始まっており、パンデミックはその傾向を一時的に増幅させたと考えられる。
婚姻数減少の背景には、以下のような社会経済的要因が考えられる。
1. 晩婚化の進行:
厚生労働省の統計によると、2022年の平均初婚年齢は男性31.5歳、女性30.0歳となっており、2015年と比べてそれぞれ0.6歳、0.8歳上昇している。
2. 未婚率の上昇:
国立社会保障・人口問題研究所の推計によると、2020年の生涯未婚率は男性27.4%、女性18.2%に達している。
2015年の同調査と比べて、それぞれ4.0ポイント、3.6ポイント上昇している。
3. 人口減少と少子化:
日本の総人口は2008年をピークに減少に転じており、特に結婚適齢期人口の減少が婚姻数に影響を与えている。
総務省の人口推計によると、25〜39歳の人口は2015年の2,624万人から2022年には2,414万人へと、約210万人減少している。
4. 経済的不安定性:
非正規雇用の増加や賃金の伸び悩みにより、特に若年層の経済的基盤が不安定化している。
厚生労働省の賃金構造基本統計調査によると、25〜29歳の男性の平均年収は2015年の344.6万円から2021年の340.8万円へと減少している。
5. 価値観の多様化:
結婚に対する価値観が多様化し、必ずしも結婚を人生の目標としない若者が増加している。
内閣府の「令和3年度 結婚・家族形成に関する意識調査」によると、「結婚するつもりはない」と回答した18〜34歳の未婚者の割合は、男性17.3%、女性14.6%に達している。
これらの要因が複合的に作用し、婚姻数の長期的な減少トレンドを形成していると考えられる。
コロナ禍は、これらの既存の課題をさらに顕在化させる触媒となった可能性が高い。
一方で、コロナ禍は結婚に対する人々の意識や行動にも新たな変化をもたらした。
1. オンライン婚活の普及:
対面での出会いの機会が減少する中、マッチングアプリやオンライン婚活サービスの利用が増加した。
株式会社IBJの調査によると、2020年のオンライン婚活サービスの利用者数は前年比約2倍に増加したという。
2. 小規模婚の増加:
大規模な結婚式が制限される中、少人数での挙式や家族だけの ceremony など、新しい結婚スタイルが注目されるようになった。
ゼクシィ結婚トレンド調査2022によると、50人未満の結婚式を挙げたカップルの割合は2019年の15.8%から2021年には37.2%に増加している。
3. 同棲の増加:
コロナ禍での外出自粛や在宅勤務の増加により、同棲を始めるカップルが増加した。
リクルート住まいカンパニーの調査によると、2020年4月〜6月の同棲目的の賃貸住宅への入居は前年同期比で約1.5倍に増加したという。
4. 結婚に対する価値観の再考:
コロナ禍を経て、人生の優先順位や家族の価値を見直す人が増加した。
株式会社マクロミルの調査では、コロナ禍を経て「家族の大切さを再認識した」と回答した人の割合は68.5%に達している。
これらの変化は、単なる一時的な現象ではなく、今後の結婚や家族のあり方に長期的な影響を与える可能性がある。
婚姻数増加に向けた未来戦略
婚姻数の減少は、少子化や人口減少といった社会問題とも密接に関連している。
そのため、婚姻数を増やすための取り組みは、社会全体にとって重要な課題となっている。
ここでは、婚姻数増加に向けた独自の視点からの戦略を提案する。
AIやビッグデータを活用し、価値観や生活スタイルの適合性を重視したマッチングシステムの開発。
例えば、スマートウォッチなどのウェアラブルデバイスから取得したライフスタイルデータを分析し、生活リズムや健康習慣の似たパートナーを推薦するサービスなどが考えられる。
リモートワークやフレックスタイム制の普及を促進し、仕事と家庭の両立をしやすい環境を整備する。
具体的には、「結婚支援休暇」の導入や、新婚カップル向けのワーケーション支援など、企業主導の取り組みを推進する。
結婚・新生活支援事業の拡充や、新婚世帯向けの住宅補助制度の創設など、若者の経済的負担を軽減する施策を強化する。
さらに、「結婚資金贈与税の非課税枠拡大」など、親世代から子世代への資産移転を促進する税制改革も検討に値する。
事実婚やパートナーシップ制度の法的整備を進め、多様な形の「家族」を社会的に認知する。
これにより、法律婚にこだわらない若者の選択肢を広げることができる。
地域や職場を基盤とした新しい出会いの場を創出する。
例えば、SDGsなどの社会課題解決に取り組む「ソーシャルビジネス婚活」や、地域の伝統文化を学ぶ「文化継承型婚活」など、単なる出会いだけでなく、共通の目的や価値観を持つ人々が出会える場を設ける。
学校教育の中に「ライフデザイン教育」を導入し、若いうちからキャリアと家族形成の両立について考える機会を提供する。
また、企業研修にも「ワークライフバランス講座」を取り入れるなど、社会全体で結婚や家族の価値を再認識する取り組みを行う。
グローバル化が進む中、国際結婚を希望するカップルへの支援を強化する。
具体的には、多言語対応の結婚手続きサポートや、国際カップル向けの文化理解プログラムの提供などが考えられる。
結婚に対する不安や恐れを軽減するため、カウンセリングサービスの充実や、夫婦関係改善プログラムの開発・提供を行う。
AI チャットボットを活用した24時間相談窓口の設置なども効果的だろう。
これらの戦略を効果的に実施するには、政府、企業、NPO、教育機関など、様々なステークホルダーの協力が不可欠だ。
特に、テクノロジー企業やスタートアップの役割が重要になると考えられる。
例えば、ソフトバンクグループ傘下の婚活アプリ「Omiai」は、2021年にAIを活用したマッチングシステムの精度向上を図り、マッチング率を約1.5倍に向上させたという。
このような技術革新が、出会いの質を高め、結果として婚姻数の増加につながる可能性がある。
また、株式会社LIFULLが運営する新築・分譲マンション情報サイト「LIFULL HOME'S」は、2022年から「新婚さん応援キャンペーン」を実施。
新婚カップル向けの特別割引や、ライフプランニングセミナーの無料提供など、住宅購入を通じた新生活支援を行っている。
これらの取り組みは、企業が単なるサービス提供者を超えて、社会課題解決の担い手となる可能性を示している。
今後は、こうした民間企業の創意工夫と、政府の制度設計がうまく噛み合うことで、より効果的な婚姻数増加策が実現できるだろう。
まとめ
「洞房花燭」という伝統的な概念を出発点に、コロナ禍前後の婚姻数の変動を詳細に分析してきた。
この分析から見えてきたのは、結婚のあり方そのものが大きな転換期を迎えているという事実だ。
確かに、婚姻数の減少は社会的な課題として認識されるべきだ。
しかし同時に、この変化は新たな可能性も秘めている。
コロナ禍を経て、人々は改めて「つながり」の重要性を認識した。
小規模婚の増加や、オンライン技術の活用など、新しい結婚のカタチが生まれつつある。
これは、形式や規模よりも、二人の絆や周囲との genuine な関係性を重視する傾向の表れと言える。
また、多様な価値観や生き方が認められつつある現代社会において、「結婚」の意味そのものも再定義される必要があるだろう。
法律婚に限らない多様なパートナーシップのあり方や、家族の新しい形が模索されている。
こうした変化の中で、「洞房花燭」という言葉が持つ本質的な意味̶̶新しい人生の門出を祝福するという精神̶̶は、むしろ今こそ重要性を増していると言える。
テクノロジーの進化は、この古い概念に新たな輝きを与える可能性を秘めている。
VR技術を活用した新しい形の結婚式や、AIによる最適なパートナーマッチングなど、従来の概念を超えた「洞房花燭」のあり方が生まれつつある。
ビジネスの観点からも、この変化は新たな機会をもたらす。
結婚関連サービスの多様化やパーソナライズ化、新しい家族形態に対応した商品開発など、イノベーションの余地は大きい。
最後に、「洞房花燭」の精神̶̶新たな人生の門出を祝福し、寄り添い合うこと̶̶は、結婚という形式に限らず、人と人とのつながりを大切にする社会全体の理念として捉え直すことができるだろう。
この視点に立てば、婚姻数の増減だけでなく、社会全体でどれだけ豊かな人間関係が築かれているかが重要になる。
そして、そのような社会を実現することこそが、現代における「洞房花燭」の新たな意義と言えるのではないだろうか。
結婚のあり方は変化し続けるが、人々が幸せな人生の門出を祝福し合う心̶̶それこそが「洞房花燭」の真髄であり、これからの社会でも大切にされるべき価値なのだ。
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